*遊戯な未熟*

晴天と呼ぶに相応しく、太陽の高く輝く刻。

ふと目を覚ましたクラピカは、まず時計を見やった。
寝起きに目にするには不自然な位置にある短針。どうやら、疲れに身を任せ1時間ほど浅い眠りに落ちていたらしい。
クラピカは未だ気怠さの残る体を持て余し、ぼんやりとベッドに伏せた。隣でぐっすり眠るレオリオの存在を視界の隅で認識し、余計に起きる気力が失われた。目を閉じて夢と現実の境界付近をウトウトと彷徨うこの時間は、低血圧な彼にとっては常の事だ。
…が、5分も経てば思考も冴える。微睡みを忘れた無聊はどうにも落ち着けないのだろう、クラピカは体を起こした。
服を着るのも面倒で、その素肌を晒したまま、サイドに置かれた読みかけの文庫小説に手を伸ばす。照明は消した状態でもカーテン越しの外の明かりで凌げそうだ。栞を外しページを捲って、ベッドに腰掛けて。紙の上の文字列に視線を集中させて、―――――…腰を突然に掴まれ、思わず声を上げた。
「レオリオッお前っ」
「…驚いた?」
愉快そうなその男は、ベッドに寝そべった状態でクラピカの腰に腕を回している。眠っているものとして気にかけていなかったために、驚きを晒してしまったのは不覚だった。
「オレのこと無視してサッサと読書始めちまうんだもんな、お前。冷てーのー。」
「…タヌキ寝入りだとは気付かなかったからな。いつから起きていたんだ」
「ん、いや、元々オレは 寝てねーから。轟沈しちまったのはお前だけ」
グッと言葉に詰まるクラピカを見上げて、楽しそうに笑う。
「たった一回で、だもんなー。そーゆートコは まだまだ子供っつーかさー」
「馬鹿にするな、お前が乱暴にするから……うわっ」
パサリと、小説が床に投げ出される。
「乱暴って、かなり手加減してんのにさー…やっぱ子供じゃん」
「子供じゃない…、っこら、重いッ」
仰向けに押さえ込まれてしまっては、どう暴れても敵わない。
軽々と押さえ込んだのを良いことに、レオリオの手のひらはクラピカの胸元を辿り始める。
「あっ…」
粒を軽くつねられて思わず目を閉じてまえば、暗闇の中でもはっきりとした感触だけがリアルに官能を刺激する。レオリオの指は突起の周囲を円を描くように辿り、焦れたようにクラピカが薄く目を開くと見計らったように中心を擦った。そうしてまたクラピカは声を漏らしそうになる。さっき服を着ておけば良かったなどと、後悔しても今更だ。
「ッ――…」
内股を探っていた指が、不意にクラピカの中心を つっと滑る。ほんの悪戯にすぎない刺激を受けただけで、それは反応を示していた。
「ま、ここは子供じゃねーもんな…?」
悔しそうに睨むクラピカの瞳にも、熱が灯り始めている。
意思とは裏腹に抵抗の弱まってしまったカラダを、レオリオは本格的に溶かしにかかった。細い首筋をキスで埋めながら、手首から肩にかけてを手のひら全体で撫でて。少しずつ移動させた唇で、腕の内側の柔らかい肌を吸い上げて―――…
「っひぁッ」
短い悲鳴に、レオリオは驚いて顔を上げる。クラピカは突然ビクリと跳ねたかと思うと、腕を体にピッタリと付け、脇を閉じてしまったのだ。
「? どうしたよ?」
「い、いや、何でも…ナイ。」
顔を背けて、ぼそぼそと小声での返事。
レオリオは一瞬困惑した。内腕に触れられる事を嫌がるそぶりなど、今まで一度もなかったハズだ。
…が、ふと思いつき、クラピカの両手首をその頭上で纏め上げ、左手で戒め押さえつけた。
焦ったような抵抗を無視して、空いた右手の指先で クラピカの脇の辺りをつつッとなぞる。
「~~~~~――ッや、やめッ」
「なんだ、お前ココ弱かったのか?」
脇の辺りを中心に、体の筋を辿る。そういえば、この辺りはあまり触れた事がなかったか。
先刻 腕に舌をやっていた時には、髪がココに擦れたのだろう。
「や…めろッ 手、離せっ」
「ンだよ、感じるトコは触んなきゃ意味ねーだろ」
「ちっ違うッ ~…く、くすぐったいッ!」
真っ赤な顔でようやく叫んだクラピカに、レオリオは指の動きを止めた。戒めた手首はそのままだ。
「んー…と、だからさー。それが、ニアイコール“感じる”ってコトだろ」
「え…」
「ほら。ココと、ココと…似たよーな感じだろ?」
言いながら、 胸、脇を 指が滑る。過敏な体は、またピクリと震えた。
「モトは同じなんだって。んー…強いて言えば、“くすぐったい”ってのは子供の感覚なんだろな」
そのキーワードのせいだろうか?クラピカはつい反抗的な態度を見せる。
「私は…子供なんかじゃない。」
オイオイ、マジになんなよ…そう言いかけて。レオリオは、はたと何かを思いついたようだ。
「へぇ?オトナだったらさ」
それは、カルい意地悪だ。
「オトナだったら…擽ったくなんかねぇハズだよな。オレがこんなふうに掴んでなくたって、こーやって 両腕 上げてられるよな?」
クラピカが、そんな挑発を受け流せるハズはない。
その両手首を開放し、レオリオは右手の指を 弱い箇所へと移動させた。
「ん…っ」
切なげに眉が寄せられた。
爪の先で掻くような動きにも、クラピカは言われた通りの姿勢で耐えている。グーの形に握られている両手の力み具合から その必死さが伺えて、更にイタズラ心を煽られる。
指の代わりに、舌で辿ってみる。何度かなぞり上げると 小さな声の漏れるのが聞こえ、つい笑ってしまった。
(スグにギブアップだと思ってたのにな…)
更なる意地悪に、レオリオは左手も使い始めた。悪戯に指を動かし、軽い往復を繰り返す。
耳まで真っ赤な横顔を見る限り、やはり『感じる』よりも『くすぐったい』の要素が強すぎるようで。
愛撫というよりは子供のじゃれ合いのような気分になって、レオリオは胸の一点に唇を寄せた。
「あっ…は―――…」
胸先を転がし、その先端をチロチロと舐めて震えさせる。もう片方も、移動させた指で軽く押し潰す。
クラピカは、それでも律儀に姿勢を保とうと試みていた。
しかし、それも出来なくなった。
「あ―――…ッ…」
クラピカの中枢に、指が絡み付いたのだ。思わず手を動かし、レオリオの胸板を押してしまった。
押したところで、どうせ動かせやしないのに。
「なんだ、クラピカ。結局、ギブ・アップ?」
「そ…んな、お前がそんな…場所を…ッ」
「オレは、手ェ上げてろって言っただけだぜ?こっちには触らないなんて、言ってない…」
卑怯な男に言い返す余裕なんてスグに無くなり、クラピカの理性は呆気なく翻弄された。一方的な行為は屈辱でさえあるのに、どうしようもない。
小刻みに揺れる五本の動きは、クラピカを知り尽くしたうえで、狙いすましたように責め立てるのだ。
もがけば もがくほど、一層強く煽られる。
「あ、あっ」
「…ホラ、ンな抵抗ばっかしてねーで。手、オレの背に回してみな?」
潤んだ瞳を半開きにして、クラピカはどうにか広い背に縋み付く。
達するための刺激を求め無意識に腰を浮かせるクラピカに応え、レオリオは短いキスを送った。
同時に、空いた もう片方の手の指を一本。背後の蕾へと、もぐりこませた。
「ひあぁっ」
一際大きな悲鳴と共に、レオリオの背中に強く爪が立てられる。…本人は、気付いてはいないようだが。
「レオっ…ゆ、指、抜い…」
「どうして。ちゃんと慣らさねーとダメだろ?」
「ッ…う…んっ あっ…動か…すなっ」
「どうして?」
深い場所の、特にイチバンの部分…レオリオは当然 その位置を正確に把握しているのだが、わざとらしく その周辺ばかりを揉み押す。
後ろにも前にも這わされる指は、決して決定的な刺激を与えず、じわじわと追い詰めていった。一気に責められてしまう事と ギリギリを保たれ続ける事と、どちらが よりツラいのだろうか。
ガクガクと全身が震えて、耐えるだけで手一杯だ。
「―――…くッ…」
「…そろそろ?」
潜り込んでいるレオリオの指が、今まで故意に外していた一点を強く突いた。
「っうあぁッ」
透明な涙が一筋だけ流れ落ちる。レオリオの背中は、軽い傷を負った。
レオリオは小さく笑うと、解放を求めて白濁の涙を溢れさせるクラピカ自身を4本の指で軽く握り。親指で、その入り口をグリグリと揉み擦った。
「あ、んぁッ」
両の手はまた、レオリオを押し返すために もがき始めた。
思わぬ刺激に、耐え切れなかったのだ。
「コラ。背に回してろって、言ったろ?」
絶頂が近い。身体が熱い。抵抗するのに夢中で、もう余裕なんかなかった。
「…ホント、仕方ねーな…」
焦らして苛めて、従わせてしまう事も出来そうだったが。…今回は、このまま一度 施してやる事にした。
「あっ、は…あ――――――…」
急に速まった動きに追いつけず、クラピカはそのまま――――果てた。

「…クラピカ」
声と一緒に、唇が降りてくる。
ゼェゼェと荒い息、気怠さの伴う解放感。身体に力の入らないのは諦めて、クラピカはせめて息を整えようと試みた。
だが数回の深呼吸では まだ収まらない。
「クラピカ、こっからが本番…だぜ?」
返答しようにも、声を出すのは億劫で。弾む息はそのまま、ただコクリと頷いた。

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「疲れたなら、また寝ちまえよ」
「…平気だ。」
お前だって平気なんだろ、と小声で付け加えたその声は 多少 掠れている。
クラピカは、レオリオに背を向けてベッドに横になっていた。既にズボンを穿いたレオリオが クラピカご寵愛の紅茶を淹れると、怠そうに体を起こして そのカップを受け取る。
散々 喘がされ 疲れた>喉が、程よい冷たさに潤う。ほぅと口をつく吐息。
しかし その一杯を飲み終えると、クラピカはまた寝転がった。…さっきと同じように、レオリオ側に背を向けて。
「お前さー。なんかスネてたりするだろ」
無造作に置かれたカップを回収しながら、レオリオは苦笑する。
「スネてなんかない。」
「スネてるだろ」
「スネてない」
一呼吸の後、小さく言葉が続けられた。
「…あえて言うなら、怒っているんだ。」
クラピカは、ジロリと目線だけをよこした。
「…知っているか?“擽(くすぐ)る”の“擽”は、“むちうつ”とも読めるんだぞ」
「ムチ…? SMでもヤりてーのか?」
「バカ言うな。そーじゃなくて」
目線が、再びレオリオから背けられる。
「ああいうのは…卑怯だ。大人も子供も ないじゃないか。」
「卑怯って…まぁ…な。」
「…お前、いつも子ども扱いするだろ。子ども扱いして、…手加減してさ」
レオリオは、思わず目を丸くした。
「経験と慣れの差だとは分かっている。でも、子供扱いはするな。…いつも手加減して、お前、…」
―――お前、私なんかとで楽しめるのか。
クラピカは、そこで口を噤んでしまった。
要するに、余裕タップリの彼に自分ばかり煽られるのが嫌なのだ。対等じゃない。悔しいのもあるけれど(相手がレオリオだから余計に)、申し訳ないような罪悪感にも悩まされる。
(やっぱり、怒ってるんじゃなくてスネてんだろが…)
軽く笑いながらベッドに寝転んだレオリオは、まだ不機嫌そうにソッポを向く子供を 両腕で後ろから包み込んだ。
「慣れてない お前相手だからこそ、楽しめるんだろが」
「何故?…“子ども扱い”は、手加減ではなく ただの意地悪、という事か?」
「お前の方が よっぽど意地悪だっつーの…」
つい浮かべた苦笑を すっと引き、目の前の細い肩口へ唇を寄せる。
「っ……」
「ま、確かに…1ラウンドでダウンしちまうなんて、ソッチは物足りねーし。いつまでたっても抵抗ばっかされるのも、もどかしいとは思うけどよ。でも、慣れてねーな…ってのは、嬉しいモンなんだぜ?」
ゆっくりと腕を揺らしながら、耳元で囁く。
「でも…やっぱり物足りないんだろ」
「その分、教える楽しさがあるからさ。満足してるって」
揺り篭のように揺らされて、淡い眠気がクラピカを抱き始めた。
「子供でイイじゃん。じーっくり、オレ好みに仕込んでやるからさ。オレの手で、大人にしてやるよ」
「…解決になってない…。」
「しばらくの間だけだって。」
何か言い返してやりたいとは思ったけれど。
行為の疲れも相俟ってか、意識はウトウトと失われつつあって…
「クラピカ、分かった? OK?」
「んー…」
クラピカはそのまま、微睡みへと落ちていった。

「…思わぬところで、イイ口実が出来たよな。クラピカのOKも頂いたコトだし」
抱きしめた腕を そっと解きながら、レオリオは愉しそうだ。
「マジでオレ好みに仕込んでやろうか。…起きたら3ラウンド目、楽しみにしてろよ?」
鞄から何やらの道具まで取り出し始めたレオリオの事など 露知らず。クラピカは また暫し、安らかな眠りに身を預けるのだった。