ここはハンター協会本部内、十二支んとして活動するにあたって与えられたレオリオの私室である。
 そして時刻は、浅すぎず深すぎない夜。ちょうど恋人たちがベッドで楽しむに相応しい時間帯だ。
 さらに室内には、レオリオとクラピカの二人きり。
 これまで幾度も肌を重ねてきた二人が、こんな夜に私室で二人きりとあらば、当然にそうなる展開が予想されよう。
 
 しかしながら今夜のレオリオには、そんな展開に及ぶわけにはいかない事情があった。
 
「……クラピカ、お前はさっさと自分の部屋へ戻れ」
 警告する低い声は、わずか震えていた。
 声の主たるレオリオは、らしくもなく部屋の角に体育座りで丸まっている。類まれな巨躯を誇る男がそんな体勢を取ると、傍から見てなんとも窮屈そうだ。
「部屋から出てけ。早くしろ」
 命じられたクラピカはしかし、「こんな状態のお前を放置できるはずがなかろう」と首を振るばかりだ。
 
 いい感じの夜に、私室でクラピカと二人きり。
 そんな状況に置かれれば、普段のレオリオならば速やかにクラピカをベッドへ引き込んでいただろう。ズリセンこいて女を連れ込んだと公言してしまったほどに血気盛んかつ性欲も盛んなレオリオだ、クラピカとヤれるチャンスをみすみす逃す手があるはずもない。
 
 けれどそれでもレオリオは、今この場でクラピカを襲うわけにはいかない事情を抱えていたのだ。
 
「気に病む必要はない」と、その事情を知るクラピカは、頑ななレオリオの態度に溜息を吐く。「あれはお前の立場を考えれば、やむを得ぬことだった。結果的に、あんなふざけた薬品を───〝媚薬〟を飲むことになったとしてもな」
 
 媚薬。
 それこそがレオリオを蝕んでいるものの正体だった。
 ルーキーとはいえプロハンターのレオリオだ、〝纏〟による肉体増強効果もあり多少の毒薬には耐えられるはずなのだが、あいにくと今回飲まされた媚薬は闇市に流れる極上の逸品。そんな品を飲む羽目になった経緯なんかを回想する余裕もないほどに、レオリオは今、とてつもない欲望に取り憑かれていた。
 息苦しい。体中が熱い。目の前の華奢な体に、触れたくてたまらない。
 だからレオリオは、そんな欲望を押さえ込むために、部屋の角で窮屈に体を丸めて座り込んでいたのだ。
 
「随分と苦しそうだな。一度、体調の確認を……」
 一歩踏み出したクラピカを、「近付くんじゃねぇ」とドスの効いた声が拒絶した。
「体調の確認とか、要るわけねーだろ。ただの媚薬だ、ほんとにただ興奮しちまってるだけだ」
 だから、とレオリオは切羽詰まった声で願う。
「……さっさと帰ってくれよ。今のオレ、お前に何しちまうか分かんねぇ。帰ってくれ。オレに酷いことされちまう前に」
 早く、早く、クラピカに触れたくてたまらない。
 そんな欲望を固く握りしめた拳で押さえ込むレオリオに対し、しかしクラピカはやはり引いてはくれなかった。
「なんの問題がある? お前が私にしたいことをすれば良かろう。そうして欲求を満たせば、媚薬の効力は鎮まるはずだ」
「……誘惑してんじゃねぇよ。早く帰れ」
「遠慮は無用だ。行為が多少乱暴だからといって、そう簡単に傷付き壊れるような体ではない。それに、限度を超えた無体を振るわれた場合はストップを掛けることもできる。確かに腕力ではお前に敵わない部分もあるが、いざとなれば念能力を用いて抵抗は可能だからな」
 ごちゃごちゃと喋るその体を今すぐ両腕に捕らえて剥きあげて、泣くまでメチャメチャに犯し尽くしたい。
 そんな制御不能な欲望に侵食されながら、レオリオはそれでも歯を食いしばって堪えた。
 クラピカの誘惑に乗ってしまうわけにはいかない。クラピカに乱暴を働く己の姿なんて、レオリオは想像したくもないのだ。
「別にお前とヤらなくたって、自分でシコりゃどうにでもなるっつーの。さっさと部屋に戻れ」
「こんな状態のお前を放置して帰れと?」
「そりゃ命に関わるアレコレだったら薄情かもしれねぇけどよ。ただの媚薬だぜ? 心配ねぇよ。ズリセンこいてもいいし、最悪、時間が経てば解決すんだからよ」
 一刻も早くクラピカを遠ざけようとするレオリオの必死の思いは、やはり伝わらない。
「乱暴な行為では私を傷付けてしまうかもしれないと、そう憂えているのか? ならば挿入以外の手段を用いればいい」
「……いいから、お前はさっさと帰っ……」
「手淫や口淫によっても、性欲は解消できるだろう? 己の手で慰めるよりも、他人に施されるほうが媚薬による本能的な欲求は満たされやすいはずだ。ならば私が、手や口でお前に……」
 手や、口で。
 具体的な行為を示す言葉が耳に届くと同時、レオリオの脳裏にその映像が浮き上がる。
 レオリオの足の間に跪き、手と口で男性器に奉仕する、クラピカの艶めかしい姿。
 その扇情的なイメージに脳が犯された瞬間、ついにレオリオの理性は、膨れ上がった本能に食べ尽くされた。
 
「……逃げなかったお前が悪ぃんだからな」
 
 脅すような声が聞こえた途端、クラピカの体は宙に浮き、次にはベッドへ転がされていた。
 そしてクラピカが反射的に身を起こす前に、本能を剥き出しにした男が圧し掛かってくる。
「レオリオ、………っ」
 ぶちんと派手な音が立ち、ボタンが次々と弾け飛ぶ。
 レオリオの手が、クラピカのスーツの前を無理やり暴いたのだ。
 さらにレオリオは、シャツも破り、ベルトの金具までをも壊して、クラピカを乱暴に剥いていく。一刻も早く触れたいのだと叫ばんばかりに。
 
 ……袖の長さに拘ったフルオーダーの品なのに。
 そんな大した意味のない文句を胸中でこぼしつつ、クラピカは無抵抗のまま、レオリオの好きにさせた。
 
 普段のレオリオは、クリスマスプレゼントの包装紙を大切に剥がすような所作で、クラピカの服を丁寧に脱がせていく。
 したがって、こんな乱暴な手で衣服を奪われるのはクラピカにとって初めての経験であったが、しかしクラピカに戸惑いが生じることはなかった。いかに性的好奇心に乏しいクラピカとて、男の情動がまるで理解できぬわけではない。今のレオリオは媚薬に侵されているのだから仕方がないと、当然にそう思うだけだ。
 ただ、散ったボタンや壊れたベルトに目をやって、こんなことなら先に自分で脱いでおけば良かったと小さな溜め息を零しはしたが。
 
 さてしかし、媚薬にやられた男は、クラピカを全裸に剥き上げる余裕はなかったらしい。
 下半身を剥き出しに、けれど上半身はただ前を開けただけのクラピカに、レオリオは勢い良く圧し掛かる。
 そして言葉もないままに、白い喉元をべろりと舐め上げた。
「………っ」
 くすぐったい。
 僅かに身じろいだ直後、今度はじんとした痛みに襲われて、クラピカはハッとした。
 そう、レオリオは柔らかな首筋に思いきり吸い付いたのだ。
「レオリオ、よせ……っ」
 俗に言う『キスマーク』を付けられている。
 そう気付いたクラピカは、慌ててレオリオを押し戻そうとした。
 行為の痕を残さないのは、二人の内にある暗黙のルールだった。実際には、クラピカがうっかりレオリオの背に爪痕を刻んでしまったこともあるにはあるのだが、それだってスーツを着れば隠れる部位だった。こんな喉元に鬱血痕を付けられては、ネクタイを締めたって丸見えだ。
「よせ、レオリオっ、………ッ!?」
 クラピカの抵抗は、しかし即座に封じられてしまった。
 レオリオは、その両手を恋人繋ぎで絡め取り、クラピカの顔の両横でシーツに押さえ込んでしまったのだ。
「レオリ、オ………っ」
 両手を封じられ、圧し掛かられて。
 抵抗できないクラピカの喉を、レオリオはべろりと舐めて、きつく吸い上げる。少しずつ場所をずらしながら、いくつもいくつも執拗に、所有印を刻んでいく。
 
 ───正直なところ、これはクラピカにとってあまり愉快な体勢ではなかった。
 なにしろ二人の体格差はあまりに明瞭で、こうして押さえ込まれてしまうと、クラピカが全力を出しても何も出来ないのだ。もちろん『全力』に念能力を含めればいくらでも抵抗の手段はあるのだが、逆に言えば、念能力を使わなければ抗えないということだ。こうして完全に押さえ込まれてしまう体勢は、その圧倒的な体格差をクラピカに思い知らせんばかりで、だからクラピカにとってあまり愉快ではない。
 レオリオは、そんなクラピカのプライドを尊重してのことだろう、その体格や腕力を利用してクラピカを押さえ込んだことは一度もなかった。快楽から逃げたがって無意識に身を捩るクラピカを強引に押さえたことは何度もあったが、それだって、クラピカがその気になれば抜け出せるよう加減されていた。
 だからクラピカにとって、こんなのは初めてだった。こんなふうに、完全に抵抗を封じられてしまうのは。
 
「く、……ッ」
 キツく吸われるたびに、喉元がチリリと痛む。
 クラピカが全身に力を込めても、押さえられた両手は動かせないし、巨躯はビクとも揺らがない。本当に、逃げられない。
 もしも念能力が使えなければ、こんな不利な体勢に持ち込まれた時点で終わりだ。レオリオがその気になれば、容易く犯されてしまうのかもしれない。
 思い知らされるその事実は、妙に悔しい。
 
 ……とにかくも、媚薬によって理性を削がれた今のレオリオには何を言っても届かないようだ。
 そう判断したクラピカは、喉元に赤い痕を刻まれながらも、やむなく黙って耐えることを選択して力を抜く。
 しかして不意に、クラピカの左手だけが解放された。もちろんレオリオは、クラピカのために左手を放してやったわけではなく、己の右手を自由にしたかっただけなのだろう。
 片手のみとはいえ抵抗の手段を得たクラピカは、しかし身じろぎ一つせず、そのままレオリオの好きにさせた。既にキスマークを散々付けられてしまった後であり、今さらレオリオを止めたところで意味はない。そもそも本能的な欲望に支配された今のレオリオに対しては、下手に抵抗してもその獣性を煽るばかりだろう。
 
 自由を得たレオリオの右手は、おそらく胸先に触れてくるのだろうと、クラピカはそう予測していた。
 なにしろ、レオリオの普段のやり方はおよそ決まっているのだ。
 まずは全身を優しく撫でてクラピカの緊張を解き、それから首や耳といった淡い性感帯への刺激でクラピカの体を高め、それから乳首を可愛がって、クラピカの息がすっかり上がる頃にようやく性器に触れて。一度クラピカが絶頂を迎えてから、ぐったりと弛緩したクラピカの蕾に指を挿れて、優しくほぐしていく。
 そうやっていつも、クラピカはレオリオに愛されてきた。
 だから、今回は媚薬の興奮によって多少順序を飛ばしてはいるものの、それでも次に触れられるのは胸先だろうとクラピカは当然に想像していた。
 とはいえ、今日のレオリオは媚薬の影響でいささか乱暴だ。優しく触れられるのではなく、乱雑に捏ね回されるのかもしれないと、クラピカはそう思い覚悟を決めていたのだが。
 
「………っ!?」
 次の瞬間、想像もしなかった場所に触れられて、クラピカの全身が強張った。
 レオリオの指は、クラピカの入り口を押したのだ。しかもそのまま、侵入の隙を窺うようにグリグリと指を押し付けている。
「レオリ、オ……?」
 そんな、今、すぐに?
 予想外のことに、クラピカは瞳を揺らす。だってまだ、体も心も準備は整っていない。いつものレオリオは、クラピカの心身を優しい手のひらや言葉でじっくりと溶かして、それからようやく指の挿入に至るのに。
「あっ、……ああぁ……っ」
 結局、なんの準備も施されぬまま、指はクラピカの中へと強引に沈み込んだ。
 痛みはなかった。けれど、体の表面ではない、内臓の粘膜に触れられる感覚は、逃げ出したくなるような違和感や圧迫感でもってクラピカを苦しめる。
 もちろんクラピカはこれまで、指よりもっと太くて熱いものを幾度も受け入れてきた。それでもなおクラピカにとって、こんな違和感は初めて経験するものだったのだ。いつもレオリオは挿入の前に、違和感なんか感じる余裕もないくらいに、じっくりとクラピカを高めてトロトロにしてくれるから。
「う……っ、あ、ぁ……ッ」
 内部で異物がぐにぐにと蠢く感触。
 クラピカは思わず左手でレオリオの腕を掴んだが、華奢な手指からすれば逞しい腕は硬い岩でしかない。
 右手で抵抗しようにも、こちらはレオリオの左手でシーツに縫い留められたまま。恋人繋ぎのそれはレオリオの温度をクラピカに伝えてはくれるけれど、明らかに拘束だけを目的としたそれは、心地良くも甘くもなかった。
「あ……、うぅ……っ」
 ───まるで性欲の捌け口にされているみたいだ。
 ふと浮かんだ考えを、クラピカは、まるでも何もそのとおりだったのだと肯定した。媚薬によって欲望に支配されたレオリオが目的とするのは、一刻も早い挿入、それだけなのだ。
 即座に欲望を捩じ込むのでなく指で慣らしてくれるのが、かろうじて残る優しさの片鱗だろうか。
「ん……っ、………っ!?」
 入り口に感じた違和感に、クラピカはハッと目を見張る。
 二本目の指だ。まだ一本目ですら馴染んだとは言い難いのに、レオリオは性急にクラピカの内側を広げようとしている。
「う……っ、あ、ぁ……ッ」
 そうして二本目も、容赦なくクラピカの中へと沈み込んできた。
 決して強い痛みが生じたわけではなかったが、慣れないうちから広げられてしまう圧迫感と違和感は強烈だ。クラピカは唯一自由な左手で、レオリオの上腕をぎゅうと掴む。
 
 ───性的好奇心の薄いクラピカは、この方面における知識は乏しい。
 だからクラピカは、レオリオのやり方が特別に優しいものなのだと意識したことは一度もなかった。クラピカにとっては、レオリオとの行為がすべてだったから。一般的に、閨事では皆こうした手順を踏むものなのだと思っていたから。無論、世の中に無理無体な性交が存在する事実は知っていたが、それは強姦や輪姦といった特殊なシチュエーションに限られるものだと思っていた。
 
 だからクラピカは、媚薬に侵されたレオリオの言うところの【乱暴】を正しく予見できなかったのだ。
 一晩中求められ続けるだとか、背後から獣のように揺さぶられるだとか、その程度の想像が関の山。こんなふうに腕力で押さえ込まれて、結合のみに重きを置いた前戯を施されるだなんて想像だにしなかったのだ。
 
 とはいえ、裏切られたような気分になるのは間違いだとクラピカは思う。想定外ではあったが、これが媚薬に取り憑かれたレオリオのやり方ならば受け入れるしかない。
 大人しく身を任せてしまおうと、クラピカはそっと全身の力を抜いた。
 これで、レオリオが楽になるのならと。
 
 けれどレオリオの無慈悲は、そこには留まらなかった。
 
「ひぁ……っ!?」
 突如、全身を駆けた快楽に、クラピカの体が跳ね上がる。
 レオリオの二本の指が、前立腺を抉ったのだ。
「あ、いぁッ、レオリ、あッ」
 レオリオの指には、優しく絶頂へ導くだなんて配慮はなかった。
 挿入へ向けた準備を整えるにはこれが手っ取り早いのだと言わんばかりに、グリグリとクラピカの弱点を揉み続ける。
「あ……っ、あ、レオリ……っ」
 当然ながら、そこを責められるのは初めてのことではない。レオリオは、クラピカを内部から快楽で崩していくことも好きだったから。
 けれどそれは、クラピカが十分な快楽で心身ともに弛緩した末の、最後の仕上げとしてのものだった。
 こんなふうに理性や緊張感がハッキリ残った状態で強制的な快楽を送り込まれるのは、クラピカにとって初めてのことだ。
「いあぁッ、あっ、レオ、リ……っ!!」
 ぐりっと深く抉られて、全身が仰け反ると同時、瞳がカッと熱くなる。
 ───緋の眼。
 そう、鮮やかな快楽を受けて、クラピカの瞳の色が変わったのだ。
 考えてみれば今日はこの変化さえまだだったのだと、クラピカはようやく思い出す。普段ならば、指を挿れられる頃には、しつこいほどの愛撫やキスで目の色はとっくに変わっているのに。
「あぁ……ッ、ふっ、あ……っ」
 当然ながら、クラピカの眼の色が変わろうとも、レオリオが手心を加えることはない。
 それどころか、レオリオはその緋色に気付いてすらいないのかもしれなかった。今なおレオリオは、右指でコリコリと弱点ばかりを引っ掻き、左手ではクラピカの右手を押さえ込んだまま、白い喉元に顔を埋めて好き放題に吸い付いているのだから。
 
 レオリオは、クラピカの緋色に対して何か言葉を掛けたことはない。綺麗だとも恐ろしいとも言わないし、感じてくれてるんだなと微笑むこともない。
 レオリオはその緋色に気付くといつも、そこに内包される複雑な渦を気遣うように、目尻に、瞼に、キスをくれた。包み込むようなキスを、くれたのだ。
 
「あぁ……っ、あ、……く……ッ」
 けれど今、レオリオは物理的に挿入の準備を整えるだけ。
 すべては媚薬のせいだと、クラピカとて理解はしている。それでもこんなふうに扱われると、恐怖とは非なる逃げ出したいような感覚が、じわじわとクラピカの内を這い上がってくる。
「あぁ……っ、あ、……あ、……ッ!?」
 そしてクラピカは、ふと気付く。
 じわじわとクラピカの内を侵食する、逃げ出したいような感覚の正体に。
 これは、絶頂へ向かう感覚だ。もう、絶頂が近いのだ。
「やめ……ッあ、レオリ、レオリオっ」
 クラピカは、慌てて暴れ始めた。
 何故ならクラピカは、中の刺激だけで絶頂に達した経験はなかったのだ。
 巧みな指先に翻弄されるままイキかけたことは、何度もあった。あるいはレオリオの雄で導かれそうになった事もまた。
 けれど中だけでイキかける感覚は、ふわふわと未知の場所に飛ばされそうで、クラピカはそこに身を委ねてしまうことは出来なかった。中だけでイかされたら身も世もなく乱れてしまいそうで、そんな自分をレオリオに見られるだなんて到底耐えられなかったのだ。
 だからクラピカは中の刺激だけでイかされることを酷く嫌がった。レオリオはそんなクラピカを気遣い、最後の刺激は、性器に直接触れることで与えてくれていたのだ。
「待……っ、やめッ、あ、レオリ……ッ!!」
 嫌だ、このまま中だけで果ててしまうなんて。
 クラピカはじたばたと暴れるが、しかしレオリオの拘束は無慈悲だった。
 顔の横で押さえ込まれた右手は動かせないし、自由な左手でレオリオを叩こうが押そうがビクともしない。おまけにレオリオの唇はいつの間にか移動して、今度は耳の後ろをちゅうと吸い上げて痕を刻んでいる。
「離せ……ッ、レオリ、あ、ああぁ……っ」
 顔が見えない。声も聞けない。
 まるで心を持たぬ機械に襲われているかのような錯覚に陥って、クラピカは目眩を覚えた。
 どんなに名を呼んでも、レオリオは応えをくれない。いつもは、クラピカが鬱陶しいと感じるくらいにたくさんの言葉を掛けてくる男なのに。クラピカが安心して身を委ねてしまえるようにと、穏やかな声色でクラピカを包んでくれるのに。
「いぁ……っ、あ、レオ、リ……ッ」
 顔が見えない。声も聞けない。
 それでも物理的に抵抗できない以上、声で訴えるほかはない。
「レオリ……っ、あッ、レオリ、オ……ッ」
「暴れんじゃねぇよ」
 ───しかしてようやく聞けた声は、苛立ったような低い音だった。
 意外に過ぎるトーンにクラピカが一瞬固まると、レオリオは顔を上げ、クラピカを見下ろした。
 ようやく見ることが出来た顔。しかしそれは、いつもレオリオが見せるような、安心をくれる微笑ではなかった。余裕を欠いた、苛立ちの表情だ。
「黙ってねぇと、口、塞ぐぜ」
「………!!」
 苛立ちも顕なままの顔が、クラピカへと下ろされる。
 触れ合いかける唇。けれどクラピカは本能的に理解していた。
 ───これから始まるのは、いつもの穏やかなキスなんかじゃない。このままじゃ、口の中までメチャメチャに犯される。
「や……っ、」
 クラピカが首を振って口付けを拒否すると、レオリオは不機嫌にチッと舌打ちを返す。
「大人しくキスさせろよ。噛むぞ」
「………ッ」
 決して、噛まれることが怖いわけではなかった。
 それでもクラピカの背筋にはぞくりと寒気が走る。だって、あのレオリオだ。過剰なほど気遣ってクラピカを優しく導いてくれるあの男の、これが、本能。
「…………っ、」
 再び降りてきた唇を、クラピカは今度も首を振って拒絶した。
 何か考えあってのものではない、咄嗟の拒否反応だ。
 なにしろクラピカは、獣じみた男の本能を目の当たりにするのは初めてなのだ。レオリオはいつも、自身の欲望を脇に置いてクラピカの体を丁寧に慈しむばかりだから。クラピカに、その内側に潜む本能を決して見せはしなかったから。
「ひぁ……っ!?」
 肩に走った雷のような痛みに、クラピカは思わず悲鳴を上げた。
 キスを拒まれたレオリオが、宣言どおり、噛み付いたのだ。
 本来であればクラピカがその程度の痛みに声を上げるはずもないのだが、同時にゴリリと前立腺を抉られては致し方なかった。
「あ……っ、あ、あぁ……ッ」
 痛みでもってクラピカを制そうとでもいうのか、レオリオは柔肌へ次々と噛み付いた。
 同時に、前立腺をぐりぐりと容赦なく刺激する。
「あっ、れ、レオリオ……っひ、」
 暴れたことを咎めるようにぐっと歯を立てられて、同時に前立腺も押し潰されて、クラピカは大きく仰け反った。
「待……っあ、離せッ、やめ……っ」
 念の使用だけは封じていたものの、それ以外は手も足も、クラピカの体は全力でレオリオに抗おうとしていた。しかしながら単純な腕力では、レオリオには決して敵わない。
 念能力を使わなければ、クラピカには抵抗する権利さえないのだ。
 
 ───念能力を行使してでも、レオリオの顔面に拳骨を見舞ってしまおうか。
 そんな考えが、ふっとクラピカの内を過ぎった。なにしろ、大人しくヤられるだなんてクラピカの性には合わない。
 だが、そもそもレオリオは「帰れ」と何度も忠告していた。酷いことをされる前に帰れと、警告を繰り返した。それに逆らって部屋に留まったのはクラピカだ。それなのにここでレオリオを拒絶するのは、俗な表現を用いれば、男らしくない。
 それよりは、このまま中だけでイかされることを甘受するほうが、よほど男らしいはずだ。気概を見せるなら、ここが正念場なのかもしれないとクラピカは思う。
 
 ……けれど、自慰の経験すら持たないクラピカにとって、前立腺刺激による快楽はあまりにも過酷であった。
「あ……ッ、あぁっ、ああぁっ」
 それが苦痛であれば、クラピカはいくらでも耐え抜ける。
 だが、快楽は駄目なのだ。己を律して心地よさから無意識に遠ざかり生きてきたクラピカでは、レオリオの腕の中でしか悦楽の光を見たことのないクラピカでは、快楽には耐えられない。
「むり……っ、あッ、むりだ……っ」
 クラピカらしからぬ弱音を思わず吐いてしまう、それほどに追い詰められているのに、やはりレオリオの指はコリコリと弱点を掻き続ける。
 肩を噛まれる痛みに、前立腺を抉られる恍惚に、クラピカの視界が漂白されていく。
「むり、だ、本当に……も、あ、ひあぁ……ッ!!」
 耳朶に強く噛み付かれて、クラピカは高い悲鳴を上げてしまった。
 絶頂の直前だ。ギリギリまで昂ぶらされた体は、イクことしか考えられず、制御が効かない。
「ああぁ……ッ、も、あっ、ああっああぁあ……、……あ……?」
 もうイッてしまう、まさにその瞬間だった。
 
 ───レオリオの指が、無情にも引き抜かれていったのは。
 
「……っ、………っ、」
 確かに、中だけでイかされかける初めての感覚は辛かった。
 けれどこうして寸止めされてしまうのは、それはそれで辛い。
 クラピカがもどかしさに身を捩ると、今度はレオリオの重みがふっと遠ざかる。
 体重をかけて押さえ込まれていた体が自由になる感覚は、解放感と寂寥感が複雑に混じり合う。けれど、クラピカがそれを感じるか感じないかのうちに、レオリオはすぐさま次の行動へ移った。
「あ……っ」
 レオリオは手早くズボンの前を寛げて、熱く猛ったそれを、クラピカの蕩けた入り口へと押し当てたのだ。
「レオリ、オ……っ」
 逃げられないよう両腕を抑えられて、クラピカは思わず全身を震わせた。
 もちろん恐怖感はない。いくらレオリオのものがその体格に見合うだけの巨大サイズであるとはいえ、十分に慣らされたそこはほとんど痛みを生じないだろうし、そもそもが痛みに怯えるクラピカではない。
 
 そう、クラピカが震えた原因は挿入に伴う苦痛に対する危機感ではない。
 今、クラピカの体は、絶頂直前まで追い上げられたうえ、焦らされた状態なのだ。
 そんな限界ギリギリの体に、こんな熱く猛ったものを挿れられたら───…
 
「ああぁ……ッ、あ、やぁっああぁあああ───ッ!!」
 危惧したとおり、挿入の衝撃によってクラピカは絶頂を迎えてしまった。
 前立腺刺激で迎える、初めての法悦。
 けれどクラピカには、その圧倒的な絶頂感に放心する余裕さえ与えられない。
「あぁッ、いあぁッ、ああぁあ!!」
 レオリオは、クラピカが達したからといって、手加減はしなかった。
 絶頂に悶える体へと、容赦なく腰を打ち付けていく。
「待っ、レオリっ、あぁっあああ!!」
 普段のレオリオは、クラピカが限界を迎えれば必ず休憩をくれていた。
 だからクラピカにとっては、これが初めての経験だった。絶頂したまま、突かれ続けるだなんて。
「あッ、レオリ、いまっ、いまぁッああぁああッ」
 痙攣する体は無防備で、かつ敏感だ。
 イキながら前立腺をゴリゴリと擦られてしまうと、快楽の頂きからなかなか降りてこられない。
「ああぁッ、あっ、ああぁあッ」
 絶頂感にぐったりと身を任せることさえ許されぬまま、揺さぶられる。
 もがいて逃れようにも、押さえ込まれた両腕は痛いほどギリギリと締め付けられて動かせない。
 相変わらずレオリオの唇は人間らしい言葉の一切を失ったままで、まるで獰猛な獣に犯されているかのようだ。
「あぁッ、ああぁっ、いぁああ……ッ!?」
 痙攣するクラピカの体が、それでもびくんと跳ね上がる。
 レオリオの指が、熟れた乳首をきゅっと摘まんだのだ。
「それっ、いぁッ、いあぁっああ!!」
 もっとよがり狂えとばかり、節くれだった指はクラピカの乳首を捏ね回す。
 抵抗しようにも、身悶えるばかりの体は無力だ。クラピカは緋の眼を見開いたまま、過ぎる快楽にがくがくと全身を震わせることしか出来なかった。
「ああぁあッ、あぁっ、ああぁあ……ッ」
 一度目の絶頂の感覚がまだ続く体を、二度目の波が攫っていく。
 ガツガツと獣のように腰を打ち付けられて、前立腺をゴリリと押し潰されて、目の前が真っ白になって、そして。
「ああぁ……ッ、あ、あぁっああぁあああ───ッ!!」
 容赦なく迎えさせられた、果てしない極み。
 びくん、びくんと哀れに跳ねる体の中、レオリオもまた、クラピカの内側へと欲望を放っていた。
 
 
 
 
「は……ぁ、はぁ……っ」
「クラピカ……」
 二度目の波をなんとか乗り越えた頃、聞き慣れた声に名を呼ばれて、クラピカは瞳の焦点を目の前の男に合わせた。
 ……挿入は保たれたままだが、レオリオの腰の動きは止まっている。その唇がクラピカの名を象るのも、随分と久し振りだ。一度欲望を放ったことで、レオリオは僅かなり理性を取り戻せたということだろう。
「クラピカ、悪ぃ……」
 弱々しく謝罪を口にして、切なげに眉根を寄せて。
 そんなご主人さまに叱られた大型犬のような顔をされてしまうと、散々好き勝手に扱われたにもかかわらず、クラピカはつい微笑を浮かべてしまう。
「気にするな。この程度のことで壊れる体ではない」
 もちろん、想定外の連続で驚きはした。
 過ぎる快楽にみっともなく乱れる姿を見られてしまったことも、羞恥に過ぎた。
 けれど、レオリオ本来の欲求をストレートにぶつけられたことは、クラピカにとって決して悪いものではなかった。経験にも知識にも乏しいクラピカでは、こんな機会でもなければ、レオリオの秘めた欲望に気付くことは出来なかっただろうから。
 いつもクラピカは、馬鹿みたいに甘やかされてばかりいたのだ。そう知ることが出来たのは、存外悪くない経験だった。
 
 ……と、クラピカはそう納得して、穏やかにレオリオを見上げていたのだが。
 レオリオの謝罪が、これまでの事ではなく、これからの事を指してのものだと分かっていたならば、クラピカは微笑を浮かべる余裕など決して持てはしなかっただろう。
 
「悪い、クラピカ。もう少し奥、いかせてくれ」
「………っ!?」
 ぐ、と強く腰を押し付けられて、クラピカはぎょっと緋色を見開いた。
「レオリ、オ……?」
「……全部は挿れたことねぇんだよ。今もまだ、入ってねぇ」
 クラピカの体が無意識にずり上がるのを見て、レオリオはその両腕を強く押さえ込む。
 そうして逃げを封じた体に、じわじわと圧を掛けていく。
「レオリオ、……そ、んな……っ」
 確かにレオリオのそれは、体格に見合うだけの超巨大サイズ。初めてそれを目にした夜、クラピカは男性器の一般サイズを記した文献を破り捨てたくなったものだ。けれどまさか最後まで入っていないだなんて、クラピカは夢にも思っていなかった。
 もちろん、入りきっていないという事実自体は、レオリオがそう言うならばひとまず受け入れざるを得ないところだろう。
 しかしながら、これ以上奥へ侵入されるだなんて到底受け入れられない。だってもうレオリオの熱で体中を埋め尽くされているのに、これ以上?
「無理……だ、レオリ……っ」
「……怪我させねぇから、じっとしてろ」
 レオリオが目指すのは、突き当たりのその奥だった。
 普段はクラピカを気遣い、無理のない位置への挿入に留めていたレオリオだったが、今は媚薬によって完全に箍が外れているのだ。
「レオリ……っ、無理、だ、入らな……っ」
 細い体の奥深く、結腸へと続く窄まりに、太すぎる亀頭が僅かずつ捩じ込まれていく。
 クラピカは危機感にもがこうとするが、なにしろ初めての中イキを二度も経験させられた直後だ、体にはほとんど力なんか入らない。
「あ……っ、あぁ……ッ」
 熱く脈打つ巨根の存在感が、クラピカの奥深くでじわじわと増していく。
 どこまで入ってくるのか。どこまで、入るつもりなのか。
 分からないまま、それでもクラピカの体は、徐々にレオリオの侵入を許してしまう。
「あ……ッ、ひ、いあああぁあッ!?」
 不意に、クラピカの体が大きく反り返った。
 レオリオが、ぐっと腰を押し付けて、結腸へと亀頭を捩じ込んだのだ。
「あぁッ、あっ、ああぅ……ッ」
 呼吸器まで犯されたかのような、強烈な圧迫感。
 身悶えるクラピカに構わず、レオリオは緩やかに腰を揺すって、互いの体を馴染ませていく。
「あぁッ、ああぁっ、ああ……っ」
 結腸の輪をぐぷぐぷと出入りする亀頭は、ここでの刺激にクラピカを慣らそうというのか、あるいはここでの快楽の味をクラピカに教え込もうとでもいうのか。
 最初こそ息苦しさに喘いでいたクラピカだったが、次第にその苦しさに慣れてしまうと、体の奥深くから響く悦楽ばかりが鮮やかになる。
「あ……ッ、あぁっ、あぁあ……っ」
 己の奥に、こんな鮮烈な性感帯が潜んでいたなんて。
 初めて知る悦楽に、クラピカの脳は甘く蕩けていく。
 しかしながらもちろん、こんな緩やかな動きはレオリオにとって準備運動にすぎないのだ。
「いぁッ!? ああぁッ、ひあぁあ……っ!!」
 頃合いを見たレオリオは、動きをピストン運動と呼べるものに変えてしまった。
 ギリギリまで引き抜いた肉棒を、結腸へと勢いよく突き込み、また引き抜く。その無情な繰り返しに、クラピカは身体を仰け反らせ、悲鳴じみた声を上げるほかない。
「うぁッ、あぁあっ、ああぁあッ」
 出入りするレオリオの雄が、すべてを捏ねるように擦っていく。入り口の肉襞も、しこった前立腺も、柔らかな結腸の壁も、すべて。
 あまりに過酷な快楽に、クラピカは僅かでも身を捩って逃れようともがくが、儚い抵抗にすぎなかった。ただ押さえ込まれた両腕に、レオリオの指が食い込むばかりだ。
「ああぁッ、あぁっ、ああぁっ」
 レオリオの肩に担がれた足は不随意にビクビクと痙攣を繰り返し、クラピカを襲う快楽の深さを物語る。
 哀れに揺れるその爪先が、不意に、ピンと突っ張った。
「いぁッ、あぁあッああぁああ───ッ!!」
 びくん、びくんと跳ね上がる身体。
 そう、クラピカはあっという間にイッてしまったのだ。
「あぐッ、いぁッ、いぁっああぁあッ」
 痙攣し続ける哀れな体を、レオリオは絶え間なく突き上げる。
 クラピカを気遣うどころか、絶頂によって体が跳ねるのが邪魔だとばかり、より体重を掛けてクラピカを押さえ込む。
「ああぁッ、ああぁああっ、ああぁっ」
 お前はただ受け入れて悶えていればいい、そう言わんばかりに突き上げるレオリオは、クラピカに何もさせてくれない。
 優しいセックスしか知らぬ体には、あまりに酷な行為だ。
「あぁああッ、あっ、あああぁあ───ッ!!」
 ぐぷっと結腸を抉られた瞬間、クラピカは身体を仰け反らせて、またも強制的な絶頂へと昇らされていた。
 そして今度も、レオリオの抽挿が止まることはない。
「ひぁッ、いぁっ、いああぁあっ!?」
 絶頂の波の中、さらなる刺激を加えられて、クラピカは悲鳴を上げた。
 隙だらけの乳首を、レオリオが指先で捏ね回し始めたのだ。
「ああぁっ、いああぁっ、あああ!!」
 たかが乳首への刺激であっても、絶頂の渦に溺れている体には苛烈だ。
 レオリオの手が胸へと移動したことで、押さえ込まれ続けていたクラピカの腕は片方だけ自由を取り戻していたが、もうシーツをカリカリと引っ掻くのが関の山だ。
「うぁッ、ああぁあっ、いあああぁッ」
 結腸にぐっぷりと亀頭が嵌るたび、電流のような快楽が背筋を掛ける。
 今は、無理だ、イッてるから、今は。
 視線でそれを訴えても、媚薬に支配された男には届かない。
「ああぁッ、あぁっ、ああぁああ───ッ!!」
 クラピカは悲鳴を上げて痙攣し、少しだけ脱力して、また痙攣することを繰り返した。断続的にイキ続けているのだ。
 レオリオはそれを分かっていながら、なお激しいピストンで結腸をごりごりと犯し続ける。
「ひいぁッ、いぁッあああぁああ───ッ!!」
 仰け反らせた白い喉。無防備なそこに、縄張りを主張する獣がごとく噛み付かれ、その刺激にすら反応してクラピカはまた果てる。
 そしてやはり、クラピカの絶頂に構わずピストンは続き、クラピカの全身を快楽の海へと叩き込むのだ。
「いあぁッ、ああぁっ、ひああぁッ」
「……っ、出すぜ、クラピカ」
 久方振りに聞こえた、低い声。
 前後不覚にすら陥っていたクラピカは、その声にがくがくと頷いた。
 レオリオが、中で、出す。終わるのだ、ようやく。
「あぁっ、ああぁ……ッ」
「クラピカ……っ」
 あまりにも深い場所をレオリオに穿たれて、輪郭までもが溶け合って。
 真っ白な快感の海、イキっぱなしにも似た感覚の中、クラピカの眼前に最後の頂きが迫っていた。
「ああぁ……ッ、あ、あ、あああぁああ───ッ!!」
 ごりっと奥まで突き込まれた瞬間、クラピカは緋の眼を見開き、過ぎる絶頂感に全身を戦慄かせた。
 レオリオは最奥へと精液を注ぎ込めるよう、クラピカの腰をあえて持ち上げて、緩やかに雄を突き込みながら吐精したのだった。
 
 
 
「はぁ……あ、……あ……」
 レオリオの動きが止まったことで、クラピカはようやく絶頂の高みから降りることを許された。
 ひくひくと幼く震える、哀れな体。けれどもちろん、媚薬に侵されたレオリオが一度や二度の射精で満足に至るはずもない。
「クラピカ、もう一回……」
「ひ、あ……っ!?」
 返事も待たず、レオリオは本能のまま、再び腰を打ち付けた。
 休憩もなしに続く行為に、クラピカはただ、喘ぐ。
 
 
 
    *
 
 
 
 ───意識を飛ばしていたクラピカが目覚めたのは、数十分後のことだった。
 
「目ぇ覚めたか、クラピカ」
 ベッドサイドに引き寄せた椅子に腰掛けていたレオリオが、その茶色の目を覗き、安堵の息を吐く。
 目覚めたら翌朝だったなんて展開に至らないのは、プロハンターであるクラピカの体力・精神力を考慮すれば当然のことだ。むしろ、そんなクラピカを数十分とはいえ気絶させたレオリオの巨根こそが異常に過ぎた。
 
 さて、クラピカの中へと欲望を出し尽くしたレオリオは、媚薬の効力も抜けてすっかり理性を取り戻していた。それが証拠に、クラピカが失神している間にその全身の肌は甲斐甲斐しく拭かれ、ベタベタした感触は残っていない。レオリオのほうも軽めのシャワーを浴びたのだろう、部屋着の黒いスウェット姿だ。
「どこか痛んだりしねぇか?」
「……いや」
 特には、と答えつつも、クラピカは身を起こせないままだ。
 痛みはない。だが激しすぎる行為の余韻で、全身にはずっしりと気怠さが残っている。
「あー、クラピカ、その、だな……」
 クラピカの無事を確認したレオリオは、続けてこの場で言うべき言葉を探した。なにしろ媚薬に唆されるまま欲望をぶつけてしまった直後なのだ、ノーコメントで就寝というわけにもいくまい。
 クラピカのほうから媚薬の処理に協力すると言ってレオリオを誘った以上、謝罪の言葉は不適切であろうが、これほどの乱暴を働いておいて礼から入るのも具合が悪い。
 しかるにレオリオは言葉を探していたのだが、クラピカは「問題ない」と先手を打って退けた。
「喉の鬱血痕に関してはなんらかの対策が必要だが、それ以外に憂えるべき要素はない」
 数十分とはいえ気絶に追い込まれるほど犯し尽くされたというのに、普段どおりに整ったクラピカの顔貌にはなんら感情は乗せられていない。
 まあそういうヤツだよな、とレオリオが息を吐くと、「それよりも」とクラピカは平坦に尋ねた。
「私はお前に、普段から忍耐を強いていたのか?」
 忍耐?
 意図の分からぬ単語にレオリオが首を傾げると、クラピカは具体的な言葉に替えた。
 
「本心では、お前はいつも、今回のような性交渉を望んでいたのか?」
 
 質問の意図を理解したレオリオは、そっと目を泳がせた。
 なかなかに答え難い質問だ。
 今回やってしまったような挿入だけを目的とした即物的な前戯については、普段のレオリオ的には完全にナシなのだが(丁寧に体を溶かして夢中にさせるほうが好きなのだ)、挿入後のアレコレに関してはレオリオの内に潜む正直な欲望だった。一切望んでいなかったと言えば、嘘になる。
 だがレオリオとしては、セックス初心者のクラピカに対して、強引な中イキや結腸責めを強行するつもりは今後もなかった。なにしろ、誰にも懐かぬ気位の高い猫のようなクラピカが、レオリオにだけそっと肌を委ねてくれるのだ。クラピカが安心できるようなやり方で優しいことだけを教えて、事後はレオリオの腕の中、安らいだ寝顔を見せてくれれば満ち足りる。
 
 しかし直球であるがままを打ち明けてしまえば、クラピカは『今後はお前の欲望のままにすればいい』とでも言うだろう。なにしろ、気遣われるままに甘えてくれるタイプではない。
 かと言って、レオリオが口先だけで誤魔化したところで敏感にそれを察知してくるのだから困りものだ。
 
「えーとな、クラピカ」かくしてレオリオは言葉を選びつつ答える。「今までもオレの全部挿れちまいてぇとかは正直思ってたし、だからまぁ全然そういう欲求がなかったわけじゃねぇんだけど、でもなんつーか、忍耐ってほどでもなくてだな、……」
 そんなふうに答えていたレオリオは、しかしふと気付く。
 クラピカから向けられた視線に潜む、興味関心の僅かな光に。
 
 元来のクラピカは、好奇心旺盛でチャレンジ精神に富み、求知心も強い。ストイックな生き方と相反するそれがクラピカの表面に浮上することは極めて稀ではあるのだが、しかしレオリオは思う。
 ……もしかしたらクラピカは、こういうアレも、そんなに嫌じゃねぇのか?
 実際のところ、クラピカに潜む好奇心のベクトルの向きは定かではない。未知の行為に興味があるのか、レオリオの内に燻る欲望自体に興味があるのか、自分の知らないレオリオをもっと見てみたいということか。
 とにかくも、クラピカが良いというならば、レオリオとしてもヤりたいわけで。
 
「……たまには、今回みてぇにヤってもいいか?」
 レオリオが言えば、クラピカはもちろんと頷く。
 
「それがお前の望みならば、好きにするがいい」
 
 媚薬をきっかけに顕わになった欲望がどういうアレコレに繋がるのかは、今後の二人のみぞ知るところだ。