窓を見やれば、内側の幾多もの水滴が光を反射していた。
南に低く位置する太陽に季節を意識する事はあまりないが、正午過ぎにも暖房を効かせなければ辛いのは相当に冬が深まってきた証だろう。

「クラピカ」
「……」
「服着ろって。寒いだろ」

寝台に突っ伏したまま、彼の人は目線だけこちらに向けた。
「行為」の後に彼が不機嫌なのは…或いは不機嫌なふりをするのは、常の事。要は照れ隠し。別に、最中に特に恥ずかしい言葉を口にしてくれるわけでもないのだが、クラピカの場合ああいう表情でああいう声を出して俺を迎えていたという事実だけで恥ずかしいらしい。

「ほら、服。クラピカ」

クラピカは黙って右腕を俺に差し出した。その手のひらが言っている、「着せろ」と。
へいへいと頷いて、俺のシャツの袖を (大きい方が着せやすいから俺のにした) その腕に通してやる。そして体を起こさせ、もう片方の腕にも。
甘やかせすぎな気がしなくもないが、誰にも懐かないネコが自分だけに甘えてくる事をイメージすれば和む。うん。

「喉、渇いてねぇ? なんか飲むか」
「飲み物はいい…けど、それより背中…痛い」
「へ?」
「お前重いから」
「…すいません」
「……」
「じゃ、お揉みしましょーか」
「揉む…?」
「つーか、マッサージ」

うつ伏せにさせて、その腰の両脇あたりに膝を付く。そうして肩から背にかけてを両手でゆっくりと揉み解した。
ご機嫌取りと言うと聞こえが悪いが、クラピカとの事後には、甘い囁きよりもこうした優しいゆったりとした時間が有用だ。

「ん…っ」
「痛いか」
「…ううん…」

指先に触れる背中は布地越しにも滑らかで、ふと情欲を誘われる。が、襲ってしまう気にならないのはクラピカの体力がもたない事が分かっているからか、俺自身が事後のこうした一時を好いているからか。

「結構、肩も凝ってるよなーお前。いつも仕事とか無理しすぎだろ」
「そんな…事はっ、ない…、」
「背中もだけど…」
「あっ」
「え…痛かったか」

つい力を入れすぎてしまったかと手を止めたが、クラピカは かぶりを振って俺を促した。

「ん、んっ…、あ、そこっ」
「ここ?」
「気持ちい…い、そこ…!」
「! ―――――― …」
「…レオリオ…?」

手を。止めてしまったのは。

「どうかしたのか」
「い、いや。続けます続けます」
「ん…」

クラピカは行為の最中、喘ぐだけでそれ以上ないほど恥ずかしがって、色気のあるセリフなんて絶対に言ってくれない。
それはどこまでも徹底して、『気持ちいい』の一言さえ決して口にされる事はなく。もちろん俺はその現状に不満はなかったのだが、そこはそれ、聞けるものなら聞いてみたいと思ってしまうのが男の性。
…マッサージの時の声がアレに似てるだなんて ありがちでベタベタだが、それにしたって こんな具体的なセリフが聞けるというのは…貴重だ。

「…クラピカ、俺、上手?」
「うんっ上手い…すごく…っ」
「ここ?」
「ん…うんっ、もっと…そこ…!」

クラピカの口からは聞いた事のないような恥ずかしい言葉が惜しげもなく晒され、大胆に俺の聴覚を刺激する。
腰へ手をやればシャツの裾から白く滑らかな太腿が覗いていて、俺を更に煽った。
いやいや、襲うわけにはいかないから声だけ。声だけで満足、我慢。

俺は、次はどんなセリフを言わせようかと考える事に没頭し、そして言わせる事に夢中になった。

( その後むしろ揉まれすぎで体の節々が痛くなったらしく、クラピカに怒られてしまった )