監獄のLiberty

暗い部屋。
閉じた空間。
淀む空気。
重いカラダ。


深い海の底のような、逃げ場の無い領域(テリトリー)
細い首筋に目を留めて。 柔らかく弱そうな部分を選び舌を這わせると、小さく声が上がった。


彼はいつだって雁字搦めだ。
結わえ付けられて動けない。
四方から伸びる無機質な戒律は、
(イバラ)のような痛みを伴って彼を束縛する。
それがクルタ族の無念であるのか、彼自身の無念であるのか、
それとも…また別の何かなのか。
オレには、分からない。


当たり前ながら電気は消して、
窓も扉も内側からロックする。
出入りの無い空気が次第に濁るような錯覚は、
輪郭をぼやけさせた。


抵抗する気配のまるでない手首を、
だけど そっとベッドに押さえ付けて。
故意に時間をかけて、
ゆっくりゆっくり 取り去る衣服。
暗すぎて見えない表情を、少しだけ残念に思いながら。
最後の1枚が奪われた時、彼の体は小さく震えた。




再開を果たした9月。
執拗なほど彼を拘束する金属が、ジャラジャラと音を立てていた。
…馬鹿なヤツだ。
わざわざ
自分を戒めるモノを
具現化するなんて。

───解放してやるよ。





ドコにどう触れればより高まっていくのか。
ドコをどう弄れば声を上げるのか。
どんな行為を嫌がるのか、どこまでなら耐えられるのか。

もう 完全に理解している。
泣かせるコトすら、容易い。



顕になった肌はきめ細かく、手のひらに吸い付くように滑らかだ。
一方的に乱され 喘いでいる彼に、
啄ばむだけのバードキスを与えて。
そっと うつ伏せに寝かせ、腰を高く抱え上げる。
狭い入り口にオレ自身を宛がうと、瞬間 彼は息を詰めた。




纏いついて離れない…彼自身の。
鎖から救い出すには、どうすればいい?
引き剥がせない。連れ出せない。
だったら────




「たす…け…て、助けて────…ッ」
白魚のような右手が、
無機質な壁のみの佇む前方へと伸ばされる。
オレの動きに耐えられず、零れた涙がシーツに染みた。
ピンと張った腕。引きつって震える指先。前へ前へ……
「誰か、だれ…か……」
「───“誰か”って?」
本当に、キレイだ。余分な(モノ)もなく顕になる右手。
「クラピカ、───誰を呼んでる?」
彼の腰に回していた手を滑らせ、胸先を弄ってやる。
小さな悲鳴。更に更に、前へ伸ばされる手。
「…誰に、助けてほしい?」
何かを掴もうと、悶く指。
「レオ…リオ──…っ
 レオリオ、レオリオ────…ッ!!」
そっと腕を伸ばして、宙を掻く右手を支える。
ようやくの事で与えられた右手は、オレの手を掴み締めた。離すまいとして、強く強く───




オレの指が 舌が
彼の一挙一動を支配している。
オレには逆らえない 彼は オレを呼ぶ。
爪先から 金色の髪の 一本一本に至るまで。

…オレのモノになれ。

解放してやるよ。
オレの腕の中で、
自由に動くといい。





体にオレを埋め込んだまま、少し強引に彼を仰向けに変えた。
擦れた結合部分に痛みが走ったのだろう、小さく呻く。
閉じた双眸に、丁寧に口付けて。
「クラピカ、オレを見て」
彼はふるふると(かぶり)を振って、胸を喘がせた。
「…クラピカ。」
嗜めるように、もう一度呼んでやる。
ぐっと、深く深く抱き込んで。





暗い部屋。
閉じた空間。
淀む空気。
重いカラダ。


深い深い海の底のような、逃げ場の無い領域(テリトリー)
さぁ、お前は誰のモノになる?






闇に慣れた視界が、
彼の眼の開かれた事を伝える。
だけどホラ、見えやしない。
薄暗い夢のようなモノトーンの世界に、
彼の瞳はオレのそれと大差なく彷徨う。
ザマアミロ。
緋い瞳を好む鎖よ。

支配者はオレだ。






小さな部屋。
暗い視界。
ジャラジャラと耳障りな金属音。


鎖なんかいらない。
オレに、縛られていろ。