太陽が今日の始まりを告げようと控えめに顔を覗かせる刻。

出来うる限り気怠そうに、疲労のせいだと眠そうに、ぜーんぶお前のせいだと言いたげに、
クラピカは全身に鉛を付けられたような緩慢さを装って寝台に身を起こした。

「…装ってなどいない。本当に重いんだからな、身体」

読心術でも使ったのか、クラピカは俺の心の声に反論した。…十分元気じゃねーか。
俺は適当に笑って誤魔化し、寝覚めの紅茶を淹れる( パックで申し訳ないが )。クラピカは俺が近付いたことでようやく気付いたようにシーツで白肌を覆い隠し、それからティーカップを受け取った。

「そんなに疲れた? 昨日は一回しただけじゃん」
「その一回が長かった」

紅茶を口にしながら、クラピカは無表情に短く返答する。

「だって、せっかくロングプレイ用のゴム使ってたし」
「知るか」
「……」
「なんだ?」

その人は顔色一つ変えずにそっけない。
俺は はああぁぁ~と溜息を吐いてしゃがみ込み、ベッドに座る彼をじとっと見上げた。

「…なんだその目は」
「初々しさが欲しい」
「は?」
「お前、こういう話題の時はいつも赤面してくれてたのにさ~」
「…いい加減慣れた」
「初々しさが欲しい~」

言いながらガバッと、シーツごと彼に抱きついた。胸のあたりにグリグリと額を押し付けるのもシーツごし。
これぐらいは許されるだろう。言葉には無愛想な言葉でしか返してくれないのだから、体で訴えるのもアリだ。
それでもクラピカは何の反応もくれなかったが、暫く後 俺の髪をくしゃくしゃと掻き混ぜ始めた。

「こら。重いから放せ」
「クラピカ冷たい…そっけない…やるせない~」
「…何が不満だ。私の“初々しさ”とやらを奪ったのはお前だろう」
「へ?」
「だから。お前が私に教えたんだろう」

俺はまたクラピカを見上げた。
クラピカは「また妙な顔だな」と呟くように言った。

「…目が点だぞ。今度はなんだ」
「いや…なんか、初めて聞いた。お前のセリフが甘いのって」
「そうか?」
「そう」
「…お前の方がもっと甘いだろ、いつも。私もいい加減慣れただけだ」

クラピカは俺を見下ろしたまま、悪戯っぽく笑った。

「こんな程度で驚くなんて“初々しい”な、レオリオ?」

窓からの光に透けるように輝く、蜂蜜色の微笑。
俺は再び、クラピカの胸のあたりに顔を埋めた。

「俺からも奪って~初々しさ」
「…馬鹿」