審判 -Judgment-

この(アカ)に魅せられて
どれほどの者が 罪を犯したのだろう

この(アカ)に誘われて
どれほどの罪が 人を冒したのだろう


死という過程を経てのみ  悠久の美を誇る

       この至高の宝玉。









オレ達もまた、罪人が一人なのかもしれない。








『後悔はない』

『死ぬべき輩を闇へ葬った。…それだけだ。』

彼は、きっとそう主張するだろう。
オレは 黙って抱き寄せる。

脱ぎ捨て、脱がせた互いの服が 寝台の下で縺れ合う。
胸の愛らしい一点を指の腹で擦りながら、反応を待った。
「…っん……」
切なげに漏れた くぐもった声を合図に、舌で首筋をなぞる。胸へ、腹へ…臍の窪みを舐めた後、更に下へと移動する。
内太腿を両手で押し拡げ、彼の中心に唇を当てた。上下の往復に合わせて、素直な反応が伝わる。
「は…ぁ───…」
身を委ねて感覚を享受する彼に惜しみない愛撫を与えながら、右手をベッドサイドへと伸ばす。気付かれないように手早く、用意しておいた潤滑剤を指先に掬い取り…片手で足を押し上げ、秘孔を露にさせた。
「んっ…あッ」
…右指を二本。
潤滑剤の助けだろうかスムーズに出入りする指は、一番弱い その部分をやすやすと見つけ出した。軽く擦り押しするだけで、口に含んだ彼もビクビクと悶える。
指と舌と。後ろと前の双方から逃げ場を無くし追い詰めるのは、彼にとっては多少酷な行為だったのかもしれない。左手で押さえ込んだ細い右足も、必死の抵抗を続けている。
「あ───っ…あ、あっ」
切羽詰った喘ぎは、限界の近い証だろうか。小さな両手がオレの髪を掴む。
何もかも忘れたように瞳を固く閉じ震えている彼の表情(かお)は、容易に想像された。焦らしすぎるのも可哀想かと、俺は舌先の動きを速めた。
「ん──っん、…あ────…ッ!」
───ゆっくりと指を引き抜き、顔を上げる。
薄っすらと汗ばむ白い肌。パタリとシーツに堕ちた 細い両腕。そっと名前を呼ぶと、指がピクリと動いた。



このキレイな右手から
生まれた鎖は渦を巻き
罪科深き ()の団員たちの生を 吸い取ってゆく。


彼は、罪人(つみびと)が一人なのだろうか。


緋く染まる瞳の導くままに
その手を 紅く 染めていった。





「あっ…──ん、ッ」
その体の最奥へと、自らを重ね併せた。
閉じられた双眸に滲んだ雫を、愛しさに感けて舌先で掬い取る。
辛いかと問うと、首を小さく横に振った。
「ん……」
胸先に指を這わせ、瞼に唇を寄せる。長い睫の震えが口元をくすぐる。
「…なぁ。辛くねェ?」
繰り返す問いに、また小さく (かぶり)を振る。閉じられた瞳の筋を、舌先で そっと なぞった。
「じゃあ…さ。少しでイイから、こっち見ろよ」
頬に指を滑らせ、もう片方の手で 彼の小さな手を握る。
オレの望みを満たすべく、僅かな間隙から緋色が覗く…。



分かっている。
この体に、抱かれる理由なんか無い。
この器官も、オレを受け入れるためにあるワケじゃない。
ただ…幾度となく凝視(みつ)めた瞳。この世で最後の生きた(アカ)


オレも、罪人(つみびと)が一人なのだろうか。


オレのために、オレのためだけに
緋く染まる瞳に
魅入られ  虜となった。








 …罪作りな
           無罪(むじつ)(アカ)い宝玉は


   今日もどこかで (まこと)しやかな美を  湛え続ける。