服をすべて奪われて、まっさらな自分をさらけ出されて、そしてレオリオの匂いのする純白の布地に横たえられる。
「今日もガッチガチに強張ってんな、クラピカ」
覆い被さったレオリオは、少し困ったように笑った。
「気にするな。お前の好きにすればいい」
「好きに、ってもなぁ」
レオリオの右手が、脇腹のあたりに向かって伸ばされる。
息を飲み、身を竦めて、肌に触れんとするその手を凝視していると、しかしレオリオの手は触れる前に止まった。
「やっぱ、先にこっちがいいな」
両手ともにレオリオの手を絡められ、顔の両横でシーツにそっと押さえ込まれる。
そして、視界いっぱいにレオリオの顔が広がって。
思わず目と唇を固く結ぶと、しかし訪れたのは、おでこにコツンと優しい感触。
そっと目を開いてみると、額と額をくっつけて、レオリオは悪戯な微笑を浮かべている。
「ん、熱はないな」
呆気にとられ油断した唇を、素早く塞がれる。
隙だらけに緩んでいた口は、しかし開かされることはない。レオリオは密着させた感触を楽しむように、ゆっくりと角度を変えていく。
覚悟を決め、自ら迎え入れるように開くが、それでもただ唇を舐められるばかりだ。
もうこのまま解放されるのだろうかと思い始めた頃、ぬるりと、口内に異物を差し込まれる感触。
「……っ」
思わず全身に力が入り、しかしレオリオの手でシーツに縫い留められた両手はピクリとも動かなかった。
分かっている。蹂躙されることはない。
侵入した舌は、こちらの舌と優しく触れ合うばかりだった。
怖がらなくて良いだとか、リラックスしろだとか、最初の頃はそんな宥めるような台詞を散々言われた。
怖くなどないと、緊張してなどいないと答えていたら、いつしかそんな台詞は言われなくなった。
けれど言葉にならないだけで、レオリオの態度は雄弁だ。
……怖がらなくて良いから、リラックスしな。オレに体預けて、力、抜いて。な? 平気だろ、クラピカ……
口付けで呼吸が制限されていたためか、若干、息に乱れが生じる。
レオリオは、頬に、鼻先に、顔中にキスの雨を降らせ始めて、それは溺れかかるような息苦しさを加速させた。
不意に、左手が解放される。熱を手放した心細さに手のひらを彷徨わせていると、
「っ、」
腰のあたりを撫でられて、つい、体が跳ねる。
上半身に手を這わされて、心ごと張り詰めるように強張って、そんなこちらの気を紛らわせるように、顔に注がれるキスは止まない。
……怖くないだろ? クラピカ……
怖くはない。緊張してなどいない。
乱暴に扱われれば、きっとこんなに身を固くすることはない。
優しくされるから、こんなにも、どうして良いか分からない。
大きな手が、肌を這う。体が、強張る。
ゆっくりと、肌を這う。体が、強張る。
飽きるほどにそんな、きっと甲斐のない愛撫を繰り返しても、手のひらは優しいままで、肌を下へと辿っていく。
されるばかりではいけないと、奉仕しようとしたことはある。
だが途中で、止められた。
無理しなくて良いから、と。してほしい時は言うから、と。
結局、してほしいと言われたことなんか、一度もない。
「……ん……ッ」
潤滑剤をまぶした指が、摩擦なくぬるりと招かれる。
レオリオは真剣な眼差しで、こちらの顔を覗き込んでいる。痛みが生じているか否か、表情で確認するつもりなのだ。どんなに苦しくとも、文句を言わず訴えもせず堪えてしまうことを、レオリオは知っているから。
だがいくらなんでも、過保護だろう。たった一本の指なんか、初めての時ですら痛みなんかなかった。
「………ッ」
強引に冷たさが分け入ってくる感覚。
つまり、二本目。思わず息を飲む。
痛みが強いわけではない。引き攣れるような苦痛はあるが、少しばかり待てば軽減していくことを知っている。
ただ、二本目を挿れた後、レオリオは必ずそこを責め立てるから。
「あ……っ」
快楽を感じる芯の、その根元にあたる、そこ。
探り当てられた途端に、カクンと、全身の力が抜ける。
「あ……ッ、……ん、ぁ…っ」
レオリオは二本の指で、巧みにそこを揉み押し、擦り上げる。
じわじわと、下腹部から迫り来る感覚に体中が侵食されていく。
中を掻き回され、内臓が揺らされる感覚も。抜き差しの度に部屋に響く、卑猥に濡れた音も。
全てが体を蝕んでいく。
力が入らない。
目の前が赤い。
思考力が奪われる。
優しく脇腹を撫でる手のひらを、肌が歓迎し始める。
乱暴に扱われれば、きっとこんなに身を固くすることはない。
優しくされるから、こんなにも、どうして良いか分からない。
この体が優しさに慣れることは決してない。
優しく扱われるべき体ではないから。
私怨で命を潰し、悪事に手を染め、闇に沈み、永遠に浮き上がることのない体。
粗雑に扱われることこそが相応しい、醜悪な体。
優しく触れられることは、泥にまみれた体を硫酸で洗い流されるような歪みを伴うのだ。
……けれど、もし。
そんな体が歪みを忘れ、優しさに身を委ねてしまったなら。
それは果たして本当に、〝私〟の体なのだろうか?
「早く……」
いつまでも指で慣らすばかりの男に、催促を。
「早く……、もう……」
「……っ、駄目だ、まだ狭い。これじゃ、痛てぇから」
一瞬、欲望に負けそうな顔をしたくせに、意外と自制心が強い。
負かしてやるために、今度はあえかに囁いた。
……早く、お前のものにしてほしい。
レオリオはごくりと唾を飲み、しかし数秒は自制心と闘っていたようだった。
しかしてその結果、どこか慌てるように指は引き抜かれていく。
そう、それでいい。
次の衝撃に備えて、両手でシーツを強く掴み、目を閉じた。
「う……ッく、あぅ……っ、……ッ!!」
……さすがに、表情に出さずに耐え切ることは出来なかった。
「クラピカ、平気か? クラピカ」
「~~………ッ、」
「……つい焦っちまった。くそ……っ」
悪いのは誘ったこちらなのに、レオリオは全て自分の責任であるかのように苦しげに眉を顰めた。
レオリオの手で、額や首を拭われると、まるで湯浴み後のような濡れた感触。よほど激しく発汗していたらしい。
「痛いか? ……苦しいか?」
痛い。苦しい。体が軋む。
だが、それがどうした。
お前の手は優しい。悔いるような表情すら、優しい。
それが全てじゃないか。
「平気だ。もう、動いていい。早く……」
「……その手にゃ、もう乗らねーよ」
欲求を誤魔化すためだろう、レオリオは一つ、ゆっくりと大きく息を吐いた。
そうして最初にされたように、また両手にレオリオの手が絡み、顔の両横で押さえ込まれる。
それから、口付け。
今度は、宥めるキスじゃない。優しく、狂おしく、犯される。
優しく触れられることは、泥にまみれた体を硫酸で洗い流されるような歪みを伴うのだ。
なのに、優しさに身を委ねてしまったなら。歪みを感じなくなったのなら。
それはもう、〝私〟の体ではあり得ない。
……レオリオのものに、なったのだ。
「うぁ……っ、アっ、う、あぁッ」
突き上げられる度に、体のどこかが捻れていくようだった。
身体を作り変えられるような感覚に、抗おうともがいても、両手はシーツに縫い留められて、ピクリとも動かない。
ただされるがままに、揺らされ、喘ぎ。
次第にそれが当たり前になり、体が僅かな抵抗すら放棄する頃に、また左手だけが自由を取り戻す。
「あ、あぁ……ッ」
さっきまで左手を包んでいたその手が、今度は昂ってしまったそこを包み込む。
首を振って、止めるように左手を伸ばして、だが止まるわけもない。
「クラピカ、一緒にイこ?」
「……ひっ、やぁ……ッ」
今度こそ、脳が、溶ける。
体の奥まで抉られて、思考の奥まで掻き乱されて、確かにこの体が、レオリオのものになるのを感じる。
体だけではない、心まで侵されて、自分ではコントロール出来なくなる。レオリオの一挙一動に、支配される。
だから優しさを拒まない。拒めない。
ただ、その腕の中にある限りは。
「はぁ……ッ、あ、や……っ、ああぁ──…ッ!!」
心身がどこかに投げ出されたような浮いた感覚。下腹部が収縮する、快楽の波。
その真っ白な時間が過ぎ去って、ようやく目を開けると、優しい表情。
降りてきた唇。混じり合う吐息。
肌を手のひらが滑っても、もう体は強張らない。
ようやく楽しめるとばかりに、優しい手のひらは肌を這う。慈しむように。労わるように。
今は何も考えられない。何も考えなくていい。
レオリオのものだから。レオリオの所有する体だから。
今だけは悩むことも、苦しむことも、罪悪感で圧し潰されることもない。
何も考えなくていい。
レオリオのものだから。レオリオのことだけを、考えていれば。
背に手を回すと、精悍な顔立ちが嬉しそうに綻ぶ。
それがあまりに幸せそうで、「すまない」と、心の奥で呟いた。