「レオリオ、すまない。お前以外に頼める男がいなかった」

 クラピカと連れ立って入るパーティー会場。
 タキシード姿が、オレ達を含めて数十人。
 隅に寄せられたテーブルには、何種類もの酒と、多少のつまみ。
 一見すると、まるで紳士的な立食パーティー会場のようだった。

「ターゲットはいるのか?」
 尋ねれば、クラピカは「ああ」と低い肯定を返す。
 ターゲットは緋の眼の所有者、資産家の男。このパーティーの主催者だ。
 普段は豪邸の中で悠々と過ごすその男に接触できるポイントは、男の唯一の趣味であるこのパーティーだけらしい。主催者である事を隠し、客として参加しているとか。
 具体的な男の容姿なんかは、オレは知らない。クラピカいわく『知ってしまえばつい視線を向けてしまうだろうから』とのことだ。

「皆様、ようこそお集まりくださいました」
 司会者の挨拶は、定型通りだ。
 クラピカがターゲットに接触するのは、最後の歓談タイム。パーティーを楽しんで上機嫌のところを、ターゲットの好む話題で興味を引き、会場から繋がる個室へ連れ込む算段らしい。
 つまりはこのパーティーを、最後まで乗り切る必要がある。

「それではどうぞ、お楽しみください」

 司会のその言葉を皮切りに、会場中の男がタキシードを脱ぎ始める。もちろんオレと、クラピカも。
 全てを脱ぎ捨てたクラピカを、周囲の目線から庇うように抱き締めると、「すまない」と一言。
 そのまま床に折り重なって、少しばかり性急に、身体を繋いだ。




 予行演習と称して、先に一度だけ、オレの部屋で抱いた。
 演習なのも嘘じゃない。けれど本当は、こんな乱交パーティーで初めてを経験させるなんて、あんまりだと思ったからだ。
 オレに体中を調べ尽くされても、クラピカは怖がりはしなかった。ただ体の震えを鎮めようと、必死だった。




 腕の中からは、苦しげな喘ぎ声。
 仲間を取り戻すためなら、クラピカは何でもする。
 およそクラピカには似つかわしくない、こんな場所への潜入も厭わない。
 ……それでも。せめてオレに頼ってくれて、良かった。

 身体は繋いだまま(他の男に付け入る隙を与えないように)。
 唇も重ねたまま(こんなに綺麗な、魅力的な顔を、他の男に気付かれないように)。
 大勢の淫らな姿に混ざり込むように体を揺らしながら、オレ達は時が過ぎるのを待った。