奥村さんからのリクエストを元に書かせて頂いたお話です(リクエスト:モブに抱かれまくって擦れたクラピカがレオリオとセックスする事になり「相手が知人になった所でやることはいつもと変わらないだろ」的な感じでなめてかかって、しかし×××××を見た瞬間●●●してしまう)

「意外だな。女性を好むお前が、よもや私を組み敷くとは思わなかった」
「オレも意外だったぜ。お前が嫌がんねぇとは思わなかった」
 ベッドの上、そんな色気のない台詞を言い合って、それから少しだけ唇を緩ませて。
 二人はその日、初めてのキスを交わしたのだった。
 
 
    *
 
 
 ここはハンター協会本部内、十二支んの一人としてレオリオに充てがわれた私室兼、仕事部屋だ。
 クラピカはその夜、強引なレオリオに腕を引かれるままその私室へと連れ込まれて、仕方なしと二人きり酒を酌み交わすに甘んじていた。
 
 やがて夜が更け、話題が途切れて───正確には、ほぼ一方的に喋っていたレオリオが不意に口を閉ざして───ならばもうお開きかと、クラピカが己の私室へ帰ろうと立ち上がったその瞬間。
 
 クラピカは逞しい両腕に体を拘束され、そしてそのまま、ベッドへと押し倒されてしまったのだった。
 
「……意外だな」クラピカは突然の乱暴を非難するでもなく、レオリオをただ見上げるままに呟いた。「女性を好むお前が、よもや私を組み敷くとは思わなかった」
 飾らない本音だ。そして返された言葉もまた、他意のない本音だった。
「オレも意外だったぜ。お前が嫌がんねぇとは思わなかった」
 
 なぜ、私を押し倒した?
 なんで、オレを受け入れた?
 そんな確認の言葉は要らなかった。いや、言葉に出来なかったと言うべきだろう。
 
 十二支んとして共に活動し、決して人当たりが良いとはいえないクラピカをレオリオがさりげなく先回りで支える日々の中で───あるいは再三の電話に応じないクラピカをレオリオが強引な手段で手元に呼び寄せたときに───もしかしたらそれ以前、クラピカがヨークシンシティで付きっきりの看病を受けたとき、レオリオが鎖を纏う悲壮な生き方に唇を噛んだとき───それとも出会ってたった数日、ハンター1次試験で互いの大切な核を明かし合ったときに───
 いつの日からだともはや断定はできないが、そうして二人の内にいつの間にか芽吹いた感情は今、形容し難い複雑な蕾を抱えていた。
 未だ開かぬその花の名前は分からない。
 だから多分二人にとって、言葉よりも、体で交わす会話のほうが都合が良かったのだ。
 
 そんなわけでベッドに二人、確かめ合うように少しだけ唇を緩ませて。
 言葉にならない思いの芽を伝え合うように、二人は初めてのキスを交わした。
 触れ合うだけの、優しいキスを、交わした。
 
「ん……っ」
 キスの直後、レオリオが首筋に吸いつくと、鼻にかかった甘い音が部屋に溶けていく。
 唇や舌で首筋を愛撫しながら、さりげなく黒のスーツのボタンを次々と外していくレオリオの手に、ぎこちなさは無かった。数々の女性を相手に培った手管で、クラピカの肌を愛撫しながら、手際よくスーツを脱がせていく。
 対するクラピカにも、物慣れないがゆえの羞恥や緊張はなかった。これまで仲間の眼を取り戻すために、───不本意な経験を、重ねざるを得なかったから。
 
 ノストラード組の若頭の座を得てからというもの、クラピカは度々、権力ある男達から卑猥な目を向けられてきたものだった。そしてクラピカはそれを鋭く拒絶するどころか、見返り次第で、要求されるまま体を開いてきたのだ。
 僅かなり嫌悪感を覚えたのは最初だけ。心に麻酔をかける行為を繰り返すうちに、クラピカの内に存在したはずの大切な何かは徐々に削がれ、やがて全てを割り切ってしまった。ただ一時的に体を放棄するだけで迅速かつ平和的に目的が成し遂げられるのならば、安いものだと。
 
 そんなクラピカが今、レオリオとの行為に羞恥や緊張を感じるはずもなかった。
 相手が気心の知れたレオリオに変わったところで、行為そのものは何も変わらないのだから。
 
 今、クラピカがレオリオに身を委ねてマグロのように寝たままでいるのは、未経験ゆえの無知でもなければ、怠慢でもない。なにしろ、男をその気にさせる手練手管など当然のごとく駆使してきたクラピカなのだから。
 ただ、レオリオのような男を相手にする場合、あまり慣れた仕草は好まれないとクラピカは経験から知っていた。クラピカに行為を強要した男の中には、クラピカを恋人のように優しく扱うことを楽しんだ者達もいたからだ。そういった男達は、行為のイロハも知らぬ処女を装って身を任せていたほうが、むしろ悦んでくれたものだった。
 
 もっともレオリオは、経験豊富な女性に積極的にリードされる行為も存分に楽しめる男だろう。
 だが、キスを触れるだけのものに留め、そして愛撫で安心を促しながら服を脱がせていくレオリオの所作は、クラピカが経験に乏しいことを想定(または期待)して優しく抱こうとする者のそれだった。だからクラピカは、レオリオのやり方から判断した結果、慣れた仕草を見せずに身を任せることにしていたのだ。
 
「下も脱がせちまうぜ。いいな?」
 上半身を脱がせきった後、スラックスに手を掛ける前に丁寧な予告を寄越すところなど、まさに不慣れな相手を気遣うそれだ。
 頷いてみせるなり、クラピカは生まれたままの姿に剥かれてしまったが、もちろんクラピカがそれを恥じらうことはない。両手を頭上で縛られたうえ大きく開脚させられて、大勢の眼でニヤニヤと眺め回されたことさえある体だ。今さら、たった一人の男に見られたからといって、恥じ入る道理もない。
「あー……、電気、消してくる」
 そして結局、白百合の肌を目の前にしたレオリオのほうが、居た堪れなさにベッドを降りる結果となった。
 そう、勢いで行為を始めることとなったこの部屋は、秘め事を行うにはあまりにも明るすぎたのだ。
 間接照明一つに照度を落とされた部屋を見て、クラピカは思う。別に、明るいままでも構わなかったのにと。なにしろ、シャンデリアに煌々と照らされながら、自ら指を挿入しての自慰行為を要求された経験さえあるのだから。
 
「クラピカ」
 レオリオは、上半身の服を脱ぎ捨てただけで、待ちきれないとばかり無防備な裸体に覆い被さった。
 その温かな重みを、クラピカはそっと回した腕で受け止める。
 包み込むようなその仕草に許しを得たレオリオは、劣情の熱を帯びた手のひらで、性急にクラピカの肌を探っていったのだった。
 
 
    *
 
 
「ん、……ん……っ」
 ……いつもと、違う。
 クラピカがそう感じ始めたのは、いつの事だっただろう。
 
 これまでの男達と同様、レオリオもすぐさま下半身へ手を伸ばすものとクラピカは想像していた。
 けれど、レオリオはそうしない。
 確かな劣情を感じさせる手のひらは、けれど慈しみ深く、クラピカの肌へ丁寧に火を付けながらも肝心な部分へはなかなか触れてこないのだ。
 
「あ……っ、ん、ん……ッ」
 耳に、首筋に、それから乳首。
 上半身は散々に手や唇で可愛がられて、体はもう、もどかしいほどに昂ぶってしまっている。
 それが証拠に、クラピカの瞳はとっくに緋色を呈している。先ほどその赤に気付いたレオリオは、気遣うようなキスを目尻に一つだけくれて、……だからレオリオは、クラピカの昂ぶりをその色から察しているはずなのに。
 今もレオリオは、乳首を舐めしゃぶりながら、腰あたりを優しく撫で回すばかりなのだ。
「は……、あ……っ」
 スローセックス。
 こうした方面に関する知識もインプット済みであるクラピカの脳に、ふと、そんな単語が過ぎる。
 上半身ばかりへ愛撫を続けるレオリオの行為は確かに、スローセックスの序盤にも似ていた。
 性器をいじめて、指を挿れてかき回して───そんな即物的な行為に慣れた体にとって、レオリオの愛撫は、氷に注ぐぬるま湯のようだった。
「ん、……は、……あぁ……っ」
 尖ってしまった乳首をちゅうと吸い上げられて、クラピカは思わず顔を仰け反らせた。
 いたずらに熱を植え付けられたまま解放されない体が、じりじりと焦げついていく。
 
 もう、いっそ早く、……触れてほしい。
 
 そんな浅ましい欲望がクラピカの肌に灯るのを、あるいはレオリオは待っていたのかもしれない。
 
「あ……っ」
 突如、性器に触れられて、クラピカの体がぴくりと跳ねた。
 直接的な愛撫を待ち侘びていたそこは、既にとろとろと涙を零している。
「はぁ……っあ、あぁ……ッ」
 根元から先端まで、子猫でも可愛がるように撫でられて、クラピカはその身をくねらせた。
 ……このまま、ゆるやかに絶頂へと追いやられるのだろうか。
 そんなクラピカの予想に反し、レオリオの右手はすぐにそこから離れると、今度は割れ目を撫で始めた。
「………っ」
 挿入される。
 そう認識した瞬間、意思や慣れとは無関係に、クラピカの体はさっと強張りを見せた。
「イッちまう前に、早めに慣らしたほうがいいらしいから」
 指の挿入を急ぐ理由をそう説明して、レオリオは可憐な耳元に唇を寄せる。
「緊張すんな。ゆっくり、挿れるからな」
「ん、……んん……ッ」
 宣言どおり緩慢な仕草で、武骨な指が奥まで潜り込む。
 レオリオは宥めるようにクラピカの耳殻を舐めていたが、クラピカにそんな慰めが不要であったことは言うまでもない。反射的に体が強張ったのは、ほんの一瞬のこと。体はすぐに弛緩して、レオリオの指を素直に受け止めていた。
「……痛くねぇな?」
「……、ん……っ」
 クラピカが頷くのを確認してから、レオリオの指は体内を探り始める。
 そこは最初こそ異物の侵入に抗ってレオリオの指をきつく締め上げていたが、なにしろ犯し尽くされることを知る体だ。二本目の指までをも受け入れてしまうのに、さしたる時間は要さなかった。
「は、……ぁ……ッ」
 けれど、慣れきった体に対し、侵入した指の動きは穏やかに過ぎた。
 丁寧に、かつ慎重に揺れる指。
 スローセックスと呼ぶにも優しすぎる指先に、まさか焦らしているのだろうかともどかしく感じたクラピカは、しかしふと気付く。
 じっと見下ろしてくるレオリオの、ひどく緊張した面持ちに。
 
 ……そうか、女慣れしているこの男も、同性を相手取るのは初めてなのだ。だから、スローセックスだなんて単語が想起されるほど、慎重に行為を進めているのだ。
 気付いたクラピカは、つい口元に笑みを浮かべそうになって、しかしレオリオの矜持に配慮して引っ込めた。
 初めてゆえに加減が分からず探るばかりの指先は、まだぎこちなくて、曖昧で。
 童貞を相手にする玄人はこんな気持ちなのだろうかと、クラピカはこんな状況だというのに穏やかな思いでいたのだが。
 
「あ……っ」
 ふとした拍子に前立腺を探り当てられて、クラピカの全身はびくんと跳ね上がった。
「ココだな。クラピカのイイとこ……」
「ん……っ、……あッ、あ……ッ」
 レオリオの指は、途端に強気を見せ始めた。
 揉んだり、捏ねたり。クラピカの表情を観察しながら、徐々に刺激を強めていってしまう。異性との経験を応用しているからか、それとも手先が器用なためか、こうなってしまえばレオリオの指先は酷く的確だ。
「あぁ……ッ、あッ、ああ……っ」
 男達に中イキを教え込まれた体は、前立腺で受ける快楽に抗えない。
 潤む緋色も、上がる声も、そこが気持ちイイのだとレオリオに訴えかけてしまう。
「そんなにイイのか? ここ……」
「あ……っ、あ、あぁ……ッ」
 為すすべなく喘ぎながら、クラピカはふと自覚した。
 己の胸から湧き上がる、くすぐったく焦げ付くような感情を。
 ……そして、それが羞恥心なのだとは、少し遅れて気が付いた。
「あぁ……ッ、あ……っ」
 恥ずかしい。
 そんな感覚を覚えるのは初めてで、クラピカは己に疑問を抱く。
 みっともなく喘ぐ痴態なんて、これまで多数の男達の前に曝け出してきた。振動する機械を前立腺に当てられたまま、イッたばかりの敏感な性器を容赦なく扱かれた時なんか、狂ったように叫び抜いたことさえあった。
 それと比べれば、こんなもの。一般的な性行為におけるごく普通の反応を見せているにすぎないはずなのに。
「あ……ッ、あ、ああぁ……ッ!!」
 前立腺をぐりりと深く抉られて、クラピカは思わず大きな声を上げて仰け反った。
 これも、恥じるほどのものでもない一般的な仕草のはずだ。そう分かっていてもなお、羞恥心にカッと全身が燃えてしまう。
 ───はしたなく喘ぐ自分が恥ずかしいだなんて、これではまるで無垢な処女じゃないか。
 耐えかねたクラピカは、せめて声を抑えようと、きゅっと唇を噛んだのだが。
「口、開けてろよ」
「んんッ、あ……っ」
 レオリオの左の指は、クラピカの口を強引にこじ開けてしまう。
「唇、噛むなよ。赤くなっちまうだろ。……これ以上赤くなったら、色っぽすぎてオレが困る」
「あ……っ、あ、あ……ッ」
 そんなことを臆面もなく言われたら、唇をぎゅっと閉じることさえ恥ずかしくなる。
 どうしようもなくなったクラピカは、レオリオに見られながら、ただ喘いでいるほかはない。
「ああぁ……っ、あ……ッ」
 前立腺をコリコリと掻かれ続けて、シーツを握る両手がふるふると震える。
 ……こんなにも恥ずかしいのはきっと、レオリオが特別な男だからだ。じわじわと絶頂へ上らされながら、クラピカはぼんやりとそう考えた。
 下卑た男達に痴態を観察されるのは、悔しく屈辱的ではあったけれど、それ以上のものはなかった。男達に笑われようが蔑まれようが、目的さえ果たせればそれで良かった。
 けれどレオリオに見られるとなると、別なのだ。はしたなく喘ぐ自分の姿がこの男の目にどう映っているのかと、気になって仕方がないから恥ずかしい。男達に開発されて感じやすくなってしまった己の体が、いっそ恨めしくなるほどに。
「……中だけで、イッちまいそうなのか?」
「んんッ、ん……っ」
 コクコクと頷きながら、クラピカは羞恥心以外にも、普段と違う感覚の萌芽に気付く。
 圧倒的な、安心感。
 男の指に内部から体を支配され無理やり絶頂へ押し上げられる、その不名誉とも言えよう事実はいつもと変わらないはずなのだ。それなのに今は、苦しくも悔しくもない。ただレオリオの穏やかな温度を感じながら、心地良さだけに包まれて、体が高みへと上っていく。
「あぁ……っ、あっ、あ……ッ」
 さらなる刺激をねだるようにして、体が不随意に揺れる。
 レオリオの指は応じるように、前立腺を一層激しくグリグリと揉みしだく。
 やがて何もかもが快楽に飲み込まれていくと、クラピカは羞恥心すらも忘れ、がくがくと全身を震わせた。そして不意に、全身をぐっと弓なりに反り返らせる。
「ああぁ……ッ、あっ、ああっああぁああ───…ッ!!」
 気持ちいい。
 ただそれだけを感じながら、クラピカはレオリオの下で、果てを迎えていた。
 
 
    *
 
 
「は……ぁ、は、……あ……」
 白濁を吐き出して、ひくひくと幼く震える、色の薄い性器。
 レオリオはごくりと唾を飲み込むと、どこか急ぐようにしてクラピカから指を引き抜いた。
「ちょっと待っててくれ。脱いじまうから」
 慌てた指先が、ベルトに掛かる。これからレオリオは、布地を押し上げて主張しているそれを取り出すつもりなのだろう。
 
 ───とうとう本番か、とクラピカは細い息をついた。
 いよいよ挿入となれば、男女問わず高揚を覚えるはずで、現にレオリオも興奮を顕に荒い呼吸を繰り返している。けれど、数々の男達を相手取ってきたクラピカにとっては、いざ挿入という瞬間さえも慣れきったものでしかない。
 いつもと同じだ。前戯は多種多様にあれど、挿入してからの流れはどんな男でも大差はない。受け入れて、喘いで、やがて男がクラピカの中で射精すれば終わる。
 
 もっとも、感じてよがる姿を見られてしまうことに羞恥心を覚えるのは今回が初めてで、他人の手で強制的な絶頂を与えられながら安心して身を任せていられたのも初めてで───だから精神的な意味では、これから経験したことのない未知のものが待ち受けているのかもしれない。だがレオリオと体を繋げることで得られる『初めて』は、むしろ尊ぶべきものであるのだろうと、クラピカはそう思うのだ。
 
 だからクラピカは、いよいよの挿入を迎える直前にしては穏やかすぎるほどの心持ちで、レオリオの準備を待っていたのだが。
 レオリオがベルトを外し、ついに下半身の布をずり下ろした瞬間、クラピカはあんまりにもあんまりな光景に硬直していた。
 
 
 ───レオリオの勃起したそれは、数多の男たちを相手取ってきたクラピカでさえ見たことがないほどの、超巨大サイズであったのだ。
 
 
 ……幻覚でも見てしまったのだろうか。
 クラピカは一度、視線を天井へやった。ハンター協会本部に用意された私室に共通の、吸湿放湿性に優れる織物クロス張りの天井。まっさらな白の天井に、幻覚の要素は見当たらない。
 
 己の視界が正常であることを確認したクラピカは、今一度レオリオのそれに目をやった。
 猛々しい血管の隆起を浮き上がらせたそれは、やはり超巨大。
 この松茸と比べれば、これまでクラピカが咥えてきたものなど、えのき茸だと言わざるを得ないだろう。
 なおここでレオリオのものを松茸に例えたのは立派なそれを称える比喩の習わしに従っただけであって、サイズだけを言うならばオニフスベといった松茸より遥かに大きいキノコ類も多数存在するわけだが、今はそんな百科事典の知識に思考を巡らせている場合ではない。
 
 ……幻覚でないのならば、目の錯覚か?
 クラピカは、改めてレオリオの全身をまじまじと観察する。クラピカより二十センチ以上も高い類稀な長身に、広い肩幅、全身を雄々しく飾るがっしりと硬い筋肉。まさに男が惚れる男と呼ぶに相応しい優れた体格とあっては、股間から生えるそれもさぞかし立派なものだと誰もが想像するだろう。
 つまりはこれは、そうした先入観による目の錯覚なのでは? 心理的な要因により、恐ろしく巨大なものに見えてしまっているだけなのでは?
 
 クラピカはそんな現実逃避じみたことを考えかけて、しかしなんとか現実に踏み止まった。
 目の錯覚で言うならば、こんな巨体に囲まれていては、平均サイズのものなどむしろ小さく見えてしまうはず。優れた体格の中にあってなお霞まぬ圧倒的存在感こそが、それが物理的に巨大過ぎるという事実を誠実に物語っているのだ。
 
 ……どう考えても己の華奢な体で受け入れられる大きさではないと、クラピカは思う。レオリオとの行為で得る『初めて』は尊ぶべきものであるのだろうと、確かにクラピカは先ほどそう考えたが、しかしながらこんな『初めて』は完全に想定外だ。
 なんとかして挿入を回避せねばならないが、こんな土壇場で『やっぱりやめよう』だなんて逃げを打つのも、『無理だ、入らない』なんて気弱な台詞を吐くのも、クラピカの性に合わない。
 というわけで、内心ではこれ以上ないほどに狼狽し冷や汗を流しつつも、クラピカはあくまでスマートにこの危機を乗り切ろうとした。
 
「……はち切れんばかりだな、レオリオ」
 いかにも呆れたような声音で言いながら、クラピカは上半身を起こす。
「まずは、私の口で処理してやろう」
 そう、挿入させずとも、手や口で射精させてしまえばいいのだ。二回でも三回でも、レオリオの荒ぶる怪物が満足して大人しくなるまで付き合ってやればいい。
 口に含むには無理のあるサイズだが、なんとか先端を咥えて、根元は手で扱いてやれば問題ないはずだ。
 
 性行為の趣味趣向は多々あれど、口淫を好まぬ男はまずいないと、クラピカは経験則で知っていた。特に年が嵩み体力の衰えた男たちは、手軽に強い快楽と征服感が得られるからと、挿入よりもむしろ口淫を好む者も多かったものだ。
 それに、そもそもレオリオとのこの行為は、肉体的な性欲の解消を目的として始まったものではなく、よって必ずしも挿入に重きを置く必要はないはずだ。手淫でも口淫でも、触れ合うことで互いの情が納得に至ればそれでいい。
 
 というわけで、クラピカは右手で髪をかき上げつつ、そそり立つ松茸を咥えるため顔を下ろそうとしたのだが。
 
「クラピカ、しなくていい」
 営みのさなかには不適切なほどの冷たい声とともに、クラピカは肩を強く掴まれ、またシーツへ仰向けに押し倒されてしまった。
 見れば、クラピカを見下ろすレオリオの表情は、酷く苦しげだ。
「レオリオ……?」
「……そりゃオレだって察してたぜ、お前に経験があることくらい。お前、こういうの潔癖なタチっぽいのに、オレのことあっさり許してくれたし。指挿れても慣れた感じの反応だったし、……中だけで、すぐにイッちまったし。けど、分かっててもよ、……プライド高いお前が自分から口でするって言い出すとか、さすがに、たまんねぇ気分になる」
 どこで覚えてきたんだよ、どこで慣れちまったんだよ。
 そんな言葉を堪えるように苦しげに、レオリオは「クソッ」とだけ吐き出した。
「お前、本気でオレのしゃぶりてぇわけじゃねぇだろ? そういう表情じゃなかったもんな。口ですりゃ誰でも喜ぶもんだって、覚え込まされちまっただけだろ」
「……レオリオ、」
「オレを、お前に無理強いした奴らと同じにすんじゃねーよ。同じように、奉仕して喜ばせようなんて考えんなよ」
 泣きそうに顔を歪ませたレオリオは、けれど次には、表情を優しいものに変えた。
 それから顔を下ろして、耳打ちするように甘く囁く。
 
「───ちゃんと抱き合えるセックス、オレが教えてやるよ」
 
 これが漫画であれば、大ゴマを使用した決め台詞となるのかもしれない。
 クラピカとて、レオリオの想いに触れて、胸の奥がじんと痺れるのを感じてはいた。
 だがしかし、そんなロマンティックが、迫りくる超巨大サイズの現実をとりなしてくれるはずもなく。
 
「ひ……っ」
 ぐっと怪物を押し当てられて、クラピカは僅かに体を摺り上げた。
 どう考えても入らない。かといって、あんな情熱的な演説の後では、口淫や手淫でごまかして乗り切ることも厳しいだろう。
 つまりは、このままでは挿入まで秒読みだ。壊されてしまう。
 そんなクラピカの狼狽と焦燥を孕む表情は、レオリオには、優しいセックスを知らぬがゆえの戸惑いと受け取られたらしい。
 レオリオは「大丈夫だぜ」と、安心させるように微笑んだ。
「酷い抱き方なんかしねぇから。ほら、手、オレの背に回せよ」
 細い両手を取って、レオリオはそれを己の背へと誘導する。
 拒絶する理由もなくて、クラピカは素直にレオリオの背を掴んだ。この広い背中に、巨根を標準サイズへ縮めるスイッチが付いていやしないかと往生際悪く探りながら。
 
 正直を言えば、『そんな大きいもの、入るわけない』と泣き叫んで取り縋りたい心地だと言って過言ではないのだが、生娘のように怯えてみせるだなんてクラピカのプライドが許さない。
 しかしながらこのままでは、あの松茸に、いやオニフスベに、体を貫かれてしまう。
 とにかく挿入を回避しなくては。一刻を争う緊急事態に必死で思考を巡らせたクラピカは、ふと、そもそもの理不尽に気付く。
 
 ───何故、自分のほうが受け入れる役割だと、当然のように決まっているのだろう?
 
 二人は男同士、物理的な性機能はまったく対等だ。なのに相談もなく上下が決定しているとはこれいかに。
 数々の下卑た男どもを相手にするうちに自分はこちらの役割だとの先入観をすっかりと植え付けられてしまい、だからここまで疑問も不満も抱かなかったが、考えてみれば理不尽な話だ。
 そう、理不尽だ。この理不尽を盾に理屈を捏ね回せば、オニフスベの挿入を穏便に回避できるのでは?
 思い至ったクラピカは、早速とばかり行為の中断を要求しようと唇を開いた。
 
「レオリオ。そもそもの話になるが、」
「挿れるぜ」
「え、待……っあ、ああぁッ、あぁ……ッ!!」
 ズブリと容赦なく侵入するオニフスベ。
 そう、クラピカは惜しくも挿入の回避に失敗してしまったのだった。
「ああ……ぁ、……く、ぅ……ッ」
 太い。深い。
 感じたことのないほど奥まで侵入されて、クラピカの全身からどっと汗が吹き出していく。
「平気か? クラピカ……」
「ん、ん……ッ」
 平気か、との質問が苦痛を指してのものであれば、意外にもそこに問題は生じていなかった。
 伊達に乱暴な男達に弄り回される経験を重ねてきたわけではない。加えて今日はレオリオの優しい温度に溶かされて、クラピカの体内は十二分にほぐれていた。よってレオリオの巨根を捩じ込まれても、なんとか順応することができていたのだ。
 出血はなく、痛みもない。そう、そこに問題はない。
 しかしながらクラピカには、まったく別の大問題が生じていた。
 
 ───挿入の瞬間。
 巨大なそれで前立腺を思いきり圧迫されたうえ、脈打つ血管のボコボコと逞しい隆起に擦り上げられたことで、たまらない快楽がクラピカの背筋を駆け抜けたのだ。
 こんな感覚は初めてだと言わざるを得ないほど、それは圧倒的だった。指で探られた時にも、下品な男共のえのき茸を挿入された時にも、クラピカはこんな電撃のような悦楽を感じた経験はない。
 
 マズイ、これはマズイ。
 こんな凶悪なもので前立腺をゴリゴリ擦られるのは、マズイ。
 かつてない危機感にクラピカの全身が細く震えるも、こんな状況では、もはや何が出来るわけでもない。
 
「そろそろ動くぜ、クラピカ」
「待……っあ、ああぁッ、ああ───…ッ!!」
 容赦のない予告の直後、待ったなしにオニフスベは前後運動を始めてしまった。
「あぁッ、あっ、ひあぁッ」
 直腸を限界まで拡げられ、でこぼこした肉棒に前立腺をゴリゴリと擦られる感覚は、あまりにも苛烈に過ぎた。
 男慣れしていたはずのクラピカが、ひっきりなしの悲鳴を上げてしまうほどに。
「あぁッ、ああぁっ、あッ」
「平気か? ……辛くねぇか?」
 クラピカの表情も声音も、すっかりと感じきった状態のそれであったが、しかしレオリオはどこか不安げだ。
「マジでそんなに感じるのかよ。……やっぱ、ココがいいのか?」
「ああぁッ、ひああぁあッ!!」
 亀頭でグリグリと前立腺を押し潰されて、その意図的な責め苦にクラピカは哀れに身悶えた。
 無意識にもがく体は、けれどレオリオの両手に体幹を押さえられ、逃げを封じられてしまう。
「すげぇな。中、ヒクヒクして……」
「あぁッ、あっ、ああぁ……ッ」
 この世のものとは思えぬ巨大茸は、傘の開きも激烈だ。
 高いカリ首でがりがりと前立腺を掻かれては、ひとたまりもない。
「ああぁッ、ああぁあっ、あああぁあ───ッ!!」
 びくん、びくんと、クラピカの体が不随意に跳ね上がる。
 そう、あまりにもあっという間に、クラピカは果てを迎えてしまったのだった。
 
 
 
「クラピカ、……イッたのか」
「あぁ……っ、は、はぁ、は……」
 クラピカの性器から白濁が噴きこぼれたのを見て、レオリオは一度動きを止めた。
 まだ絶頂の余韻が引ききらないままとはいえ、多少なりと悦楽から解放されて、クラピカはぐったりと力を抜く。同時に、レオリオの背を掴んでいた両手も、力なくシーツに落ちていった。
「……良かった、演技ってわけじゃなさそうだな。ぎゅーぎゅー締め付けてきてたし……」
 柔肌へと散った快楽の証を、レオリオの指が確かめるように掬い取る。
 そう、レオリオは、クラピカの演技を疑っていたのだ。男を悦ばせるためとしか思えぬ過敏な反応は、確かにAVにみられるフィクションの世界さながらで、演技を疑われても仕方のないものだった。
 クラピカの絶頂が、精液の放出という分かりやすい証を伴うものであったことは幸いだったと言えよう。射精を伴わぬドライオーガズムを迎えていたならば、レオリオはそれを演技だと誤認して、絶頂に悶えるクラピカの前立腺を抉り続けたかもしれない。
 
「感じやすいんだな、お前……」
 レオリオの声色がそれでも切なさを帯びるのは、クラピカの過敏な反応が、男達が笑いながら開発した結果のものであると想像したからであろう。
 もちろんクラピカがあっという間に絶頂を迎えた理由の一つは下卑た男達による執拗な調教であるのだが、しかしクラピカとて、えのき茸の挿入でこんなに簡単にイクことはない。つまりは男性器の常識をひっくり返す超巨大サイズにも一定の責任はあるはずなのだが、しかしレオリオにとって己のサイズは生まれながらの標準装備。その一物がクラピカを壮絶に感じさせた原因であるだなどとは、咄嗟に考えが及ばなかったのだ。
 結果として、レオリオの内には小さな熱が燻った。つまりは、悋気の炎だ。
 これまで散々にクラピカを開発した男達の下品な笑みを想像して、レオリオの内には一つの欲求が込み上げる。
 
「……なあクラピカ。酷い抱き方はしねぇって、言ったけどよ」
 未だぐったりと弛緩したままのクラピカに、レオリオはその欲求を囁いた。
「もう少し奥、挿れさせてくれ」
「ひ……ッ!?」
 言葉と同時、ぐっと腰を押し付けられて、クラピカは緋の眼を見開いた。
 そう、レオリオのものはオニフスベもびっくりの超ビッグサイズ。未だ、最後まで侵入を果たしてはいなかったのだ。
「レオリ、オ……?」
「他の奴にも、奥までヤらせたんだろ。オレにも、許してくれよ」
 瞳にギラギラと揺れる嫉妬心を隠しもせずに、レオリオは更に腰を押し付ける。
 反射的に逃げを打とうとしたクラピカの体は、しかしレオリオの両手で腕を強く押さえられ、抵抗を封じられてしまう。
「ゆっくり挿れてくからな。乱暴には、しねぇから」
「あ……、あ……っ」
 レオリオ、誤解だ。そんな奥へ他人を招き入れたことはない。
 そう訴えたくとも、絶頂の直後で霞んだ思考は上手く働かない。どうやって拒めばいいのか、分からない。
「レオ、リ……っ」
 今でさえ、他の男のものでは到達し得なかった奥まで犯されているのだ。なのに、これ以上、奥へ?
 得体のしれぬ危機感を覚えながらも、やはりクラピカの体は上手く動かない。
 それは直前の激しい絶頂によって全身が弛緩してしまったことも理由だが、そればかりではなかった。
 最奥を押し開かれる感覚には、微かな悦楽が滲んでいたのだ。
 密やかな未知の快楽は、体中の神経を甘やかに絡め取って、肉体の支配権をクラピカから根こそぎ奪い去ってしまうようだった。
「ああ……ぁ、あ……っ」
 レオリオが目指すのは、直腸の突き当たりの、その奥だ。結腸へと続く窄まりが、レオリオの亀頭に圧を掛けられることで少しずつ口を開けていく。
 このままでは、マズイ。クラピカの頭蓋には警鐘が鳴り響いていたが、しかしレオリオに両腕を押さえ込まれた華奢な体に逃れる自由はない。
 
 そしてついに、その瞬間は訪れた。
 
「あ……ッ、ひ、いあああぁあッ!?」
 あまりの衝撃に、クラピカは緋の眼を見開いた。
 レオリオが、ぐっと巨根を突き込んで、躊躇なく結腸の入り口を突き抜けたのだ。
「あぁッ、あっ、ああぁ……ッ!?」
 入ってはいけない場所に入り込まれた違和感。
 肺にまで届いているのではと疑うほどの圧迫感。
 かつてない感覚に身悶えるクラピカに、しかしレオリオの横暴なサイズは加減を知らない。
「結腸までいったな。奥のほう、感じるか?」
「ああぁっ、あぁッ、いあぁあッ!!」
 レオリオは直腸と結腸の境目で、ちゅぷちゅぷと亀頭の抜き差しを繰り返す。
 なにしろレオリオは、この程度の刺激はクラピカにとって慣れたものだと考えているのだ。手心なんか、加えようはずもない。
「あぁッ、ああぁっ、ああ……っ」
 結腸の入り口ばかりを執拗に擦られて、クラピカは大きく緋色を見開いたまま、がくがくと全身を震わせた。
 腰を溶かされるような、圧倒的な快美感。
 クラピカはその激しすぎる愉悦に、喉を仰け反らせて喘ぐと同時、『?』マークを頭上に浮かべていた。
 
 そう、散々に男慣れしてしまったクラピカではあるが、結腸まで責められた経験は未だ嘗てなく、だから結腸近辺に潜む性感帯に関する知識は所持していなかったのだ。
 よってクラピカは混乱していた。
 今、責められているのは前立腺ではない。自分はどこで感じている? 何故、感じている?
 
「そろそろ、突いちまっていいよな?」
「ひ……ッ!?」
 混乱するクラピカに構わず、レオリオはストロークを深いものに変えてしまった。
「いぁッ!? ああぁッ、ひあぁあッ!!」
 浅い位置まで引き抜いて、一気に最奥を突き上げる。
 前立腺を擦った亀頭が、そのまま結腸の深みを掘り起こす。
 内臓を押し上げるほどの勢いに、クラピカの肢体は意思とは無関係に大きく反り返った。
「うぁッ、あぁあっ、ああぁあッ」
「本当に感じやすいな、お前……」
 感じきったその姿に、レオリオはこの華奢な体を開発した男達の姿を連想し、ますます激しくクラピカを追い立てる。
 実際には、結腸にまで侵入を果たした巨根の主がレオリオ以外にいたはずもないのだが、レオリオがそんなことを知る由もない。
「今度も、演技じゃなさそうだな。こんなに溢れさせてるし……」
「あぁッ、あぅッ、いああぁあ!!」
 蜜の溢れる鈴口をクリクリと指でほじられて、クラピカはふるふると儚く首を振った。
 とうに力の抜けきった身体は、レオリオにされるがまま、ただ身悶えることしか出来なくなっている。
「ああぁッ、あぁっ、ああぁああ───ッ!!」
 不意に、クラピカは鋭い悲鳴を上げて仰け反った。
 絶頂に達したのだ。
 しかしながら不幸であったのは、それが射精を伴わないオーガズムで終わってしまったことだろう。
「あぐッ、いぁッ、いぁっああぁあッ」
 絶頂の痙攣を続ける哀れな体を、レオリオは絶え間なく突き上げる。
 喘ぎっぱなしのクラピカの反応は強弱に乏しく、だからレオリオはその極まりの声に気付けなかったのだ。
「いあぁッ、うぁっ、いあぁああッ」
 イッてるから、今、もうイッてるから。
 そう伝えたくても、クラピカの唇から漏れていくのは、意味を持たぬ母音ばかりだ。
「うぁッ、ああぁあっ、いあぁ……ッ」
 信じがたい深みを突かれるその一瞬ごとに、自分を見失うほどの鮮やかな快楽に貫かれる。
 おまけに敏感な乳首まで捏ね回されて、クラピカはもはや上も下も分からず、壊れたように喘いだ。
「いぁッ、あぁッああぁああ───ッ!!」
 円を描くように腰を揺らして結腸を抉られ、同時に胸先をコリコリと引っ掻かれて、クラピカはまたも強制的な絶頂に昇らされた。
 びくん、びくんと跳ね上がる身体。けれどやはり、射精を伴わないその絶頂はレオリオには認識されない。だから痙攣する前立腺は、レオリオの雄でゴリゴリと擦られ続けてしまう。
「クラピカ。ちゃんと感じてるよな?」
「ああぁッ、いああぁッ」
「今、お前を抱いてんのはオレだからな。……オレだけ、感じてろよ」
「ひぁッ、ああぁああ───ッ!!」
 レオリオが教えるようにクラピカの耳をそっと食めば、その刺激にすら反応して、クラピカはまた果てる。
 そして今回もやはり、クラピカの絶頂に構わず激しいピストンは続く。レオリオの巨大ペニスは、前立腺をカリで擦っては、ぐぷんと結腸を押し開いて、柔らかな肉襞を掻いていく。
「あぁッ、あっ、ああぁあ───ッ!!」
 絶頂に達した瞬間、また次の絶頂に襲われる。
 もうクラピカは、放り込まれた絶頂の波の中で溺れているだけだ。
「いあぁッ、ああぁっ、ひああぁッ」
「……っそろそろ、出ちまいそう。お前も、イけるか?」
 獣の息でそう囁かれて、クラピカは朦朧とした意識の中、こくこくと頷いた。
 出して、早く出して。そうして終わりをくれなければ、この快楽地獄がいつまでも続いてしまう。
「あぁっ、ああぁ……ッ」
「クラピカ……っ」
 早く、中に、出して。
 そんな潤んだ緋色を向けられて、レオリオは無我夢中でクラピカの体を揺さぶった。
 そして最後の仕上げとばかり、がつんと強烈な一撃を最奥へと叩き込む。
「ああぁ……ッ、あ、あ、ああぁああ───ッ!!」
 もう何度目かも分からない限界を迎えて、クラピカが悲鳴を上げてイキ果てる。
 激しすぎる絶頂感に、クラピカの性器からも、ぴゅっと白濁が散っていく。
 レオリオはそれを見届けると、安心したように、クラピカの奥の奥へと精液を注ぎ込んだのだった。
 
 
 
    *
 
 
 
 ……まさか、こんなことになるなんて。
 クラピカは、未だ熱の余韻が燻る身体をぐったりと弛緩させたまま、逞しい腕に抱き締められていた。
 
 これまでクラピカは何度も、星を数えるくらいに馬鹿馬鹿しいほど何度も、男達に身体を開いてきた。そうして、見返りを受け取ってきた。
 拘束され卑猥な玩具を取り付けられようとも、複数の男達の手で全身を責め回されようとも、どんな屈辱的な行為にも甘んじてきた。地べたを這わされたうえ、頭を床に押さえ込まれたって構わなかった。それが仲間の眼を取り戻すに必要な行為か否か、判断材料はただそれだけ。
 この体が交渉材料になるならば、恵まれたとは言えないこの体格も意外と悪くはないものだと、肌に散った汚濁をぼんやりと眺めながらそんなことを思った夜さえあった。
 
 そう、慣れきった行為のはずだったのだ。
 だからレオリオに抱かれることも、大差はないと思っていたのに。
 精神的な要素を除けば、肉体的には似たようなものだと、そう思って受け入れたのに。
 ……まさかこんな、この世の理不尽を凝縮したかのような巨大な一物を挿入された挙げ句、わけの分からない快楽にみっともなく喘ぎまくる羽目になるとは思わなかった。
 
 レオリオに押し倒されて、初めてのキスを交わして、熱い手のひらで肌を辿られて───初めて経験する優しさや甘酸っぱさに、クラピカの内には切ない思いも芽生えていたはずなのだが、オニフスベのインパクトでそれら全てはすっかり吹き飛んでしまっている。
 今はただ、だるくて、眠い。
 
 
「クラピカ。疲れたんなら、このままオレの部屋で寝ていけよ」
 寝ていけと言いながら、この男にクラピカを寝かせるつもりがあるのかは分からない。
 なにしろレオリオは、向かい合ってクラピカを抱き締めた体勢で、クラピカの顔中にキスの雨を降らせ続けているのだ。
 ちゅ、ちゅ、と忙しなく続くそれは、完全に寝入ってしまうには少々邪魔くさくて、かといって強い疲労感はクラピカの眠気を手放さない。
 結果として、クラピカはうとうとと、浅い夢と現実の狭間を行き来し続けていたのだった。
 
 
 ぼんやりと霞んだ思考の海で、クラピカは思う。
 
 こんなイイ行為を知ってしまったら、今後、他の男のえのき茸では到底快楽なんか得られないだろう。つまりは演技し続けるしかない。まったくどうしてくれるんだ。
 ……いや、考えてみればノストラード組の収入も立場も現在は安定を得て、最後の緋の眼の持ち主も既に見つかったわけで、今後体を売る必要に迫られる可能性は低いのだった。それなら問題はないだろうか。
 
 いやいやしかし、こんな快感、クセになったらどうしてくれるんだ。
 うっかり体が疼いても、もう自慰行為なんかじゃ到底満足できるはずがない。
 病みつきになってしまいそうなのは、その巨根に押し開かれる快楽なのか、あるいはその手のひらの温度と優しさなのか。
 とにかくもこの男でなければ、クラピカの体も心ももう、満たされない。
 
「寝ちまったか?」
 低い囁きが、クラピカを浅い現実に引き戻す。けれど、目蓋は上がらない。
 そんな夢うつつなクラピカの様子は、レオリオからはすっかり寝入ってしまったものと認識されたのだろう。
 レオリオは独り言のように、ぽつりと囁いた。
「……オレ、お前のこと、本気だからな」
 
 ああ、本気ならば都合がいい。
 こうなったら、とことん責任を取ってもらおうじゃないか。
 そんなことを考えながら、クラピカは今度こそ本当に、眠りの底へ落ちたのだった。