◆きすみんさんの素敵なレオクライラストを元に書かせて頂いた短いお話です。きすみんさん、本当にありがとうございました!
きすみんさんの素敵なレオクラはこちら(pixiv)で見られます!!

『会えるのは今夜だけだから』
 素直に腕の中に収まるコイツは、どうせ今日もそんなことを考えている。


 事前予告もなしにオレの部屋を訪ねてきたクラピカは、もう遅い時刻だからと我が物顔でシャワーを浴びて、手ぶらで来たからと勝手にオレのシャツを羽織った。
 要は一泊していくらしい。オレの都合も聞かず、許可も得ず。
「ボタンくらい全部閉じろよ。風邪引くぜ」
 薄手のシャツ一枚で佇むその姿は、室内とはいえあまりにも無防備だ。
 すらりと細い脚から目を逸らしてみても、ボタンが半端だからただでさえサイズの合わないシャツから鎖骨が剥き出しで、長すぎる袖が手を隠してしまうから指先の細さばかりが際立つ。
「お前、また痩せたんじゃねーの」
 近寄って、胸のあたりのボタンを一つ、留めてやる。
 そのまま上に向かって順々にボタンを留めてやろうとした時、ふいに甘い香りが鼻腔をくすぐった。
 それがシャワー上がりの髪から香ったものだと理解した瞬間、オレはその細い体を囲うように腕を回していた。
 抱き締める、と呼ぶにはあまりにも頼りなく弱い拘束に意味なんかないけれど、どうせ腕力でもって拘束したところで捕まえておけるわけじゃない。とはいえ、自身の恵まれた体格には感謝している。痩躯のすべてを腕に収めることで、本当はこのまま逃したくないのだと意思表示できるから。
「クラピカ」
 呼んでみるとクラピカは少しだけ顔を上げてくれたけど、その表情は金色に隠されたまま窺えない。
 もっと瞳が見えるようにと髪に指を差し入れ、後ろへ流すように梳くと、顕わになったイヤリングが小さく揺れた。
 コイツは冷たい金属鎖の檻で頑なに余所者を拒むくせして、一度侵入を許した相手には存外甘くて、だからこうして触れることもできてしまう。けれど、知らないままでいられたほうが良かったのかもしれない。つんと澄ました人形みたいな仏頂面が、こんなに柔らかな皮膚で象られているなんて、触れなければ想像もできないままでいられた。触れてしまったから、知ってしまったから、手放したくない。
 ふと、されるがままだったクラピカが、オレの胸元にそっと手を滑らせた。甘えるような指先は、けれど同じ生き物なのかと疑うくらいに冷たくて、早くオレの熱を分けてやらなければと義務感にも似た焦燥に駆られた。
 こんなふうに近くで触れ合えることは喜びであるはずなのに、いつだって胸の奥に込み上げるのは泣きたいような切なさで、それはきっと繋ぎ止めるすべがないことを知っているからだ。

『会えるのは今夜だけだから』
 素直に腕の中に収まるコイツは、どうせ今日もそんなことを考えている。
『なあ、なんで突然オレの部屋に来た?』
 聞いてやりたい言葉を、オレは飲み込むほかはない。刹那の逢瀬と割り切れるオレでなければ、クラピカは二度と訪ねてこなくなる。

 腕の中、そっとオレを見上げる眼差しに感情の色は薄い。すべてがオレからの一方通行のような気がして、早くそこに情欲の炎を灯してやりたくなる。
 けれどベッドに移動したらあっという間に朝が来ることを知っているから、今はこのままもう少し、素直に身を委ねてくれる体がオレのものなのだという幻に浸りたい。

 だからそんな、何もかも悟ったみたいな表情を見せるなよ。
 今すぐ、襲いたくなるから。