蜘蛛を見た。親指程度の小さな蜘蛛。ただそれだけのことなのに、

その時のクラピカは気が立っていたのか、

変色した瞳はなかなか元に戻らなかった。

落ち着かせようと抱き締めても、

広い腕に抱き締められても、

腕の中で呼吸を荒くするばかりで、

はらわたの煮えくり返るようなやり場なく叫び出したいような何でも良いから破壊し尽くしたいような激しい衝動が

落ち着かなくて、

苦しくても、湧き上がる怒りが憎しみが、強ければ強いほど燃え上がりこの身を揺るぎなくするから手放せない。

けれど激情で壊れてしまわぬよう、ひたすらに抱き締める。

「今日、赤い眼のウサギが一羽、鳥籠の中、極寒の路上で売られていた」

孤独な一羽のウサギに重ねたのは同胞か、それともクラピカ自身なのか、

無力であることは罪なのか、ただそれだけで、どんな目に遭わされても仕方がないほど罪深いことなのか、

分からないけれど、

胸が痛い。心臓が痛い。痛い、熱い、赤い、

痛みを分け合えたら良いのに、

この腕はこんなに広いのに、きっとこの激情を受け止められるほど広いのに、

激情はこの細い体から出ていかなくて留まり続けて

激情を受け入れてくれるのなら、

分かち合えるのならいっそ、

レオリオの深い の瞳に、

クラピカの清らな の瞳を、

吸い込まれて、包み込まれて、

吸い込んで、覆い隠して、

無理なことだと分かっていても、

少しでもそれに近付くために、

邪魔な服を全て払って、

生まれたままの姿となって、

それでもまだ皮膚が邪魔で、

だから乱暴をせがんだ。

望んだ行為ではなくとも、

怒りも憎しみも覆い尽くせるほど乱暴にするようせがんで、

優しく狂わせていく行為では時間がかかるから、

一刻も早くと、

乱暴を急かされて、苦痛を捩じ込んだ。

痛みに叫んだ。叫ばなくても耐えられるけれど、

無遠慮に突き上げて、獣のように叫ぶ口実を与えた。

痛くて痛くて悔しくて、

どんなに辛いかオレには分からない

何故、我々はこんな苦痛を味わわされねばならなかったのかと

どんなに辛いかオレには分からない

何度も何度も繰り返した詮無い叫びが胸を引き裂いてしまわぬよう

どんなに辛いかオレには分からないから

意味のない叫びだけを押し出した

意味もなく涙が押し出されるのだと思う。

愛してる

囁かれても

愛してる

何度も囁かれても

いっそ壊れてしまうほど脆ければ苦しまないのにと思いながら

何故、溶け合えないのだろう。

痛みと快楽の区別のつかない、捻じ曲がった空間に落とされて、気付かぬうちに絶頂を迎えると、

張り詰めた空気が少しずつ緩む。

行為後に分泌されるホルモンは、興奮を強制的に鎮めてしまうから、

熱いばかりの呼吸は少しずつ冷めていって、

高まったままの怒りはまた胸の底の奥深く暗いスペースに収納されていく。

こんな一時凌ぎを繰り返してもどうにもならないと分かってはいるのに、

内分泌系に助けられて力を放棄した手を伸ばして、

涙と汗の混じった肌に触れて、

抱き合ってみれば、やはり皮膚が邪魔で、だから、

互いに舌を伸ばして、

粘膜で触れ合った。

瞳は赤いままだけど、

瞳は赤いままなのに、

心は同じ色に、

二人、落ちていった。