初めてなのだと、クラピカはそう言った。

「オレも初めてだよ、クラピカ」
「ズリセンこいて、女を連れ込んでいたのは?」
「それ言うなって。…分かってんだろ、男は初めてってことだよ」

ベッドにクラピカを組み敷いて、レオリオは優しく笑いかける。

「お互い、初めて同士だからさ。頑張ろうな? 失敗しても気にしないってことで」

レオリオは完璧に予習済みで、失敗する気などさらさら無かったのだが、クラピカを安心させるために優しくそう告げた。




ゆっくりと服を脱がせていっても、クラピカに一切の緊張がないことに、レオリオは僅かに違和感を覚えた。
一般的には、初めて人前で全ての肌を晒すとなれば、同性が相手とはいえ多少なりと体が強張るものだ。特にクラピカは猥褻な創作物を好まず、事前にイメージトレーニングが出来ていたとも思えない。
しかしクラピカは一糸纏わぬ体を、迷いなくレオリオに委ねた。
意外と大胆なのだと、レオリオはこの時はそう思った。

「は……、ぁ…ッ」

肌に触れていくと、その反応は確かに初々しかった。
最初は出来るだけ敏感でない場所を選び、手のひらで優しく撫でる。徐々に、指先でなぞるようにして淡い刺激を少しずつ加えていく。
僅かな刺激でも身を捩っていたクラピカが、慣れて少し落ち着いた頃を見計らって、特に敏感な胸先に舌を這わせる。

「っあ!? ……ん、はぁ…ッ」

僅かに呼吸を震わせて、クラピカはレオリオの愛撫を受け入れた。
レオリオの手で、舌で、唇で、クラピカの全身が色付いていく。

「お前さ、一人でしたこと、あんの?」

唐突に聞かれ、クラピカは赤い瞳で、首を横に振った。
レオリオの視界にあるクラピカの芯は、触れられてもいないのに熱を持ち、解放を待ち望んで震えている。

「やっぱねーのか。大丈夫、ゆっくりゆっくり、するからな。……触るぞ」
「んっ、……あ…ッ!!」

予告どおり、レオリオの手に包まれて、クラピカの体がビクリと跳ねる。

「あぅッ、あ、……はぁ、ん、あぁッ」

レオリオの手に扱われると、単なる手淫にしては大袈裟なほど、クラピカは反応した。
喘ぎ声は、大きい。恥ずかしがって手で口を押さえるのではないかとレオリオは想像していたが、クラピカは実に素直に声を上げた。歯を食いしばることすらしない。声を聴かせることが、クラピカにとって当然のことであるかのように。

「レオリ……ッ、あ、も……、あぁ…ッ」

胸粒を舌で転がしていると、声は切迫したものに変わり、体がピンと張り詰める。
予想よりも早いが、初めてであればこんなものだろうと、レオリオはスピードを上げてクラピカを追い詰める。

「はあぁッ、あ……ッ、ひ、ふああぁ…ッ!!」

レオリオの手の中で、クラピカは甘く爆ぜた。



クラピカがぐったりと絶頂の余韻に浸っているうちに、レオリオは素早く、己の衣服を脱ぎ捨てていった。
ベルトを外すカチャカチャと小さな金属音に、クラピカは薄っすらと目を開けた。
そうして視界に入ったのは、レオリオの猛りきった雄。
クラピカはそれを見ると、ほとんど無意識のうちに上体を起こし、そしてレオリオの前に跪くようにしてそこへ顔を近付けた。

「え、クラピカ? 何して……、わ、わわっ!?」

クラピカは迷わず、レオリオのそれを口に含んだ。
巧みな舌遣いに翻弄されかけ、このままクラピカの温かさに包まれていたい衝動に駆られながら、しかしレオリオは誘惑に打ち勝ち、クラピカの肩を掴んで引き剥がす。

「駄目だ! ストップ!!」
「……駄目、か?」
「いやごめん駄目じゃない、むしろスゲー良かったけど、でもやっぱ駄目!!」

伺うような上目遣いで見上げるクラピカを、レオリオはそっと仰向けに押し倒した。

「初めてなんだから、オレにリードさせろよ」
「……そういうものなのか」
「そーそー、そーいうもの。アレは、次の機会のお楽しみってことで」

言いながらレオリオは、クラピカの秘所へと指を滑らせる。
入り口を優しく揉まれ、クラピカは思わず息を飲んだ。

「ここ、使うの知ってるか?」
「…知っている」
「え、意外だな。どこで覚えた?」

クラピカにしては珍しく、返答には暫しの間があった。

「………故郷で」

少なくとも初めて故郷を出たあの日にはその知識はあった。だからクラピカはそう答えた。
実際にそれを知った瞬間がいつなのか、手繰ろうとした記憶はプツンと途絶え、それをクラピカは疑問に思ったはずだったが、何故かすぐに忘れてしまった。

「あ……っ、は、ぁ…」

潤滑油をまぶしたレオリオの指は、すんなりとクラピカに受け入れられた。
クラピカの体に一切の強張りがないことを確認して、レオリオは安堵する。これなら最後まで出来そうだ。
あとは自制心との戦いだ。すぐにもクラピカと繋がりたい衝動を堪え、充分に時間をかけて慣らせるかどうか。
それなりに長い時間、レオリオは己の衝動と戦い続けたが、先に音を上げたのはクラピカの方だった。

「レオリオ……っ、もう…」
「もう、無理か? ……辛いか?」

つい勇んで乱暴にしてしまったかと、レオリオは焦って指の動きを止めた。
しかし、クラピカはふるふると首を横に振った。

「もう……、入る、から、」
「………!!」

そう言われてなお我慢できるほど、レオリオは忍耐強くはなかったし、体と心の余裕もなかった。
最後の自制心で指をゆっくりと引き抜くと、あとはもう衝動のままに、クラピカの両脚を抱え上げ、猛った熱を押し付けた。

「挿れるぜ、いいな」
「ん……っ、………あ、あぁ…ッ!!」

本当にクラピカの自己申告を信用して良かったのかと不安になるほど、そこは狭く、レオリオを強く締め付けた。
見ればクラピカは苦しげに眉を顰め、唇を噛んで耐えている。レオリオがそれを可哀想に思ったのも束の間、クラピカは ふっと全身の力を抜き、体の強張りを解いた。大粒の汗こそ滲んでいるものの、さほど辛くなさそうな表情に変わる。力を抜けば楽になると、知っていたようだった。

レオリオは、ようやく繋がった幸福感に、しかし酔いしれることが出来なかった。

……肌を晒されても、僅かな緊張も強張りもなかった。
……声を、まったく抑えなかった。
……レオリオの猛りを、いとも容易く口に含んだ。
……同性でのやり方を、知っていた。
……初めての場所に入る指を、震えも緊張もなく受け入れた。
……自分から、もう可能だと申告した。
……レオリオを受け入れてすぐに、全身の力を抜いた。

一つ一つは、ほんの僅かな(ひず)みだ。
だが、自慰の経験もないほどストイックなクラピカが、初めての行為でこの全てを為せるわけがないと、レオリオは分かっていた。

経験があるはずだ。それも、一度や二度ではない。
慣れているとは思えない狭さを考えると、最近のことではないのだろうが。
クラピカは、初めてだと言った。クラピカは決して嘘は言わない。
だとすれば、記憶を封じてしまったのか。
それほどに、辛い行為だったのか。

「レオリ……オ…っ」

レオリオは伸ばされた両手に口付け、手に手を絡めて、その両手をシーツへ優しく押さえ込んだ。
クラピカは、自分のことはほとんど語らない。ハンター試験以前のことも、マフィアの若頭としての日々も。
この か細い身体に、クラピカはいくつの秘密を抱え込んでいるのだろう。
ただ、今のレオリオに出来ることは一つしかなかった。クラピカの体に刻まれた辛い記憶を、この行為で上書きすること。出来る限り優しく、クラピカを扱うこと。

「そろそろ、いいな。ゆっくりするけど、辛かったら言えよ」
「平気……だ…、あ、あッ、はあぁ……ッ!!」

深く穿たれ、どんな感覚にどう耐えているのかも分からなくなりながら、クラピカは繋がった手に力を籠めた。
クラピカに自覚はないが、本来、これは危うい行為だった。
ほんの僅かでもレオリオの行為が乱暴であれば、たちまち忌まわしき記憶が揺り起こされたであろう。
ただレオリオの優しい手のひらが、クラピカを覗き込む優しい表情が、クラピカの内に潜むどんな記憶とも重ならなかったから、クラピカは何も思い出さなかった。
この行為は間違いなく、クラピカにとって初めてのことで、新しく刻まれる記憶であった。

両手を繋ぎ、深い部分にレオリオを感じ、そして唇も触れ合って、
クラピカは何故か、レオリオに浄化されているような心持ちだった。

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(2017.9.22)